HOME書評リレー > 書評: 古代史料を読む 上  律令国家篇

第50回 (2018,11,12)
佐藤 信 編 小口 雅史 編 『古代史料を読む 上・下』

評者: 八木光則 (蝦夷研究会)

書名 古代史料を読む 上  律令国家篇
著者 佐藤 信 編 小口 雅史 編
発行元 同成社
出版日 2018/03
価格 4,104

佐藤信・小口雅史編『古代史料を読む』上・下 (同成社刊)を読んで ―考古学研究者への福音の書―

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【上巻:律令国家篇】
はじめに―本書に取り組む方のために―
I 典籍と文学
 (1)日本書紀・続日本紀
 (2)万葉集
 (3)古事記
 (4)風土記
 (5)日本霊異記
 (6)伝記―唐大和上東征伝―
II 古文書
 (1)正倉院文書
 (2)正倉院文書(その2)―正税帳―
   コラム1 正倉院文書の大宝二年御野国戸籍を読む
 (3)正倉院文書(その3)―石山紙背文書の世界―
   コラム2 正倉院収蔵の古絵図―奈良時代荘園関係―
   コラム3 史料としての経典跋文
III 法制史料
 (1)令―大宝令・養老令―
   コラム4 律の受容と運用をめぐって
 (2)類聚三代格―律令国家篇―
 (3)延喜式
IV 出土文字資料
 (1)木簡
 (2)漆紙文書
   コラム5 墨書土器
 (3)金石文―上野三碑を中心に―

【下巻:平安王朝篇 】
I 典籍と文学
 (1)本朝文粋―慶滋保胤「池亭記」を読む―
 (2)今昔物語集
   コラム1 往生伝
   コラム2 『性霊集』の蝦夷知識
   コラム3 菅家文草
 (3)意見十二箇条
   コラム4 入唐求法巡礼行記
   コラム5 古語拾遺
 (4)陸奥話記
 (5)後三年記
II 古文書
 (1)尾張国郡司百姓等解文
 (2)款状(申文)―応徳三年正月二十三日付「前陸奥守源頼俊款状」を読む―
III 古記録
 (1)御堂関白記
 (2)小右記
IV 法制史料
 (1)政事要略
   コラム6 朝野群載―「国務条事」をめぐって―
 (2)類聚三代格
 (3)延喜式―平安時代篇―
 (4)北山抄―吏途指南―
   コラム7 儀式書―西宮記を例に―
   コラム8 令義解・令集解
V 絵巻物
   年中行事絵―承安五節絵―
VI 古代史料の周辺
   書風と文房四宝

 先日、東北の戦国大名を調べていた時、室町幕府の諸役人名簿に織田信長や上杉輝虎、武田信玄、松平蔵人(徳川家康)ら53人が「外様衆」として名を連ねている史料に行き当たった(『光源院殿御代当参衆并足軽以下衆覚』)。同史料には「関東衆」として古河公方ら25人、うち奥州関連では葛西、南部大膳亮、九戸五郎ら7人の名があり、ある城館の主が大名格を有していたことを傍証する史料として引用されることが少なくなかった。
 ところが、「関東衆」は群書類従本に書かれているのが一般に引用されているが、水戸徳川家ゆかりの彰考館藏本には記載がない。「関東衆」は江戸時代の後補という(黒嶋敏2004「『光源院殿御代当参衆并足軽以下衆覚』を読む」『東京大学史料編纂所研究紀要』第14号)。今まで城館の主が大名格と説明されてきた根拠が失われたことになる。
 史料は活字化されたものを読み解くだけでは不十分で、写本をできるだけ網羅的に参照して原典により近い姿を明らかにすることが求められ、こういった研究方法は文献史学の世界では当たり前のこととなっている。ただ評者のように考古学を専門とする者にとって、そのような史料批判の最新情報を入手することは容易ではない。その前にそれぞれの史料の成り立ちさえも、よくわかっていないことが多い。

 この度出版された『古代史料を読む』は、古代史研究の基礎を学ぶ人のためだけでなく、いわば門外漢のために書かれた古代史料入門の書である。扱われている古代史料は、歌集や説話集、軍記物語、発掘史料などを含む広汎ながらも基本かつ重要なものが取り上げられている。
 上 律令国家篇(9世紀頃まで)
  1 典籍と文学―日本書紀・続日本紀、万葉集、古事記、風土記、日本霊異記、唐大和上東征伝
  2 古文書―正倉院文書、同正税帳、同石山紙背文書
  3 法制史料―令(大宝令・養老令)、類聚三代格、延喜式
  4 出土文字資料―木簡、漆紙文書、金石文
 下 平安王朝篇(10世紀以降)
  1 典籍と文学―本朝文粋、今昔物語集、意見十二箇条、陸奥話記、後三年記
  2 古文書―尾張国郡司百姓等解文、前陸奥守源頼俊款状、
  3 古記録―御堂関白記、小右記
  4 法制史料―政事要略、類聚三代格、延喜式、北山抄
  5 絵巻物−年中行事絵
  6 古代史料の周辺―書風と文房四宝
 このほかにもコラムで取り上げられた史料は、上巻で正倉院文書(大宝二年御野戸籍)、正倉院収蔵古絵図、経典跋文、墨書土器、下巻で往生伝、性霊集、菅家文草、入唐求法巡礼行記、古語拾遺、朝野群載、儀式書(西宮記)、令義解・令集解がある。
 それぞれの史料ごとに斯界の最前線で研究を牽引し活躍されている執筆者が配され、最新の研究成果が盛り込まれている。
 各史料は、成立過程や作者、写本の系譜や伝来、一般に読まれている活字本の評価、史料の性格をわかりやすく解説し、さらに原文の一部を引用して釈文や読み下し文を付けて、原文を読む学習もできるように配慮されている。振り仮名もふんだんに付けられており、うろ覚えの読み方が修正させられることもある。

 それぞれの成立過程の記述は史料の理解に大きな役割を果たしている。『古事記』の項目では、古代史料として最も広く知られる記紀のうち『古事記』が江戸時代以来偽書の疑いがかけられた不幸な歴史があったことが取り上げられている。また律令格式が制定された経緯や改訂による前後の関係は法制史のアウトラインともなっており、法制書『政事要略』の内容の実効性についての記述は、史料の意義を考える上で大いに役立っている。
 万葉集や説話集、軍記物語は、史料としての意義と史料として利用する上での留意点も大変参考になる。たとえば『今昔物語集』では、時代背景や生活史、習俗に関する記述など比較的信頼に足る部分を読み取る重要性が説かれ、実際に『今昔』を引用する歴史研究も増えてきている。『陸奥話記』も、古代蝦夷を中央政府が討伐する8〜9世紀の「征夷」が11世紀に時代錯誤的に描かれた内容であり、武家政権が700年近く征夷大将軍を拝命し、国内の仮想敵を必要としつづけた社会構造を考える上で重要と説く。
 古文書では正倉院文書の多くの紙数を費やし、多様な「反故」の集合体である正倉院文書を扱っている。利用頻度の高い『正税帳』は釈文と読み下し、語句註は記載内容の理解を助けてくれている。款状(『前陸奥守源頼俊款状』)は一片の紙背文書から本州北辺の古代末期の状況や源氏内部の抗争を読み解いた実例として取り上げられている。

 考古学と古代史料との関わりにも配慮されている。正倉院文書の『大宝二年御野戸籍』の美濃国加毛(かも)郡半布(はにゅう)里の戸籍は岐阜県加茂郡富加町羽生が舞台になっており、条里地割が近年まで残り、7〜8世紀の集落遺跡も確認されている。戸籍の内容と発掘調査で現れる集落の様相との比較研究は、当該地だけでなく全国の集落や村落構造を復元していく上で大きな役割を果たすものと期待される。
 『日本霊異記』に記載される備後国三谷郡の三谷寺は広島県三次市の寺町廃寺で確認され、出土した瓦から百済僧の関与や周辺諸国の寺院建立の記述が裏付けられるという。
 また、出土文字史料は発掘調査によってもたらされるもので、考古学とは不可分の関係にある。木簡や漆紙文書、墨書土器、金石文について、その定義、読み方の留意点、漆紙文書は断簡からの復元方法などについて説明があり、個別の史料解釈もあって、考古学に携わる者にとって不可欠の項目となっている。
 このように、本書は古代史料を利活用する者にとって、基本をわかりやすく学ぶことができる最良の書である。また文字史料に不得手な考古学研究者にとってまさに福音の書といっても過言ではない。

(各史料の執筆者を割愛させていただいたことにお許しを願いたい。)

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