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第55回 (2019,03,08)
蒲原宏行 著 『弥生・古墳時代論叢』

評者: 重藤輝行 (佐賀大学芸術地域デザイン学部 教授)

書名 弥生・古墳時代論叢
著者 蒲原宏行 著
発行元 六一書房
出版日 2018/12
価格 12,960

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第I章 弥生土器の編年的研究
 1 佐賀平野における弥生後期の土器編年
 2 桜馬場「宝器内蔵甕棺」の相対年代
 3 西日本における弥生土器諸様式の併行関係
第II章 古式土師器の編年的研究
 1 北部九州出土の畿内系二重口縁壺―その編年と系譜をめぐって―
 2 古墳時代初頭前後の土器編年―佐賀平野の場合―
 3 古墳時代初頭前後の土器様相―佐賀・唐津平野の場合―
 4 唐津市久里双水古墳出土古式土師器の位置づけ
 5 東脊振村夕ヶ里遺跡SK354土壙出土の古式土師器
第III章 弥生・古墳移行期の社会変革
 1 古墳時代初頭前後の佐賀平野―集落の変貌とその画期―
 2 3世紀の北部九州―佐賀平野・志波屋遺跡群を中心に―
 3 卑弥呼の墓―弥生墳丘墓と古墳―
 4 九州における弥生・古墳移行期の墓制
第IV章 古墳時代石製品の研究
 1 石釧研究序説
 2 腕輪形石製品
 3 腕輪形石製品研究の歩みと課題
 4 石造品―その型式学的研究史―
第V章 須恵器・陶質土器と円筒埴輪の研究
 1 佐賀平野の初期須恵器・陶質土器
 2 佐賀県出土古式須恵器の産地推定
 3 小城郡三日月町杉町採集の古式須恵器
 4 佐賀県における円筒埴輪編年の予察
第VI章 横穴式石室導入期の研究
 1 竪穴系横口式石室考
 2 竪穴系横口式石室の型式分類について
第VII章 筑肥における古墳時代首長墓の研究
 1 筑紫平野古墳時代研究抄史
 2 森貞次郎「筑後風土記逸文に見える筑紫君磐井の墳墓」の理解をめぐって
 3 浜玉町谷口古墳の遺物出土状況について
 4 佐賀平野の首長墓系譜とその画期
 5 佐賀平野の首長墓と豪族
 6 肥前における古墳時代首長墓の編年
あとがき
主要著作目録

 本書は九州北部の弥生時代、古墳時代を研究してきた蒲原宏行氏がその主要論文を一書にまとめたものである。各章節が独立した既発表論文を基礎とするが、時代・テーマ順に構成し、著者の「弥生・古墳時代論」を体系的に示し、その背後にある方法や思考過程をうかがわせる優れた研究書となっている。
 「第I章 弥生土器の編年的研究」の1は2003年の弥生後期土器編年で、各器種の型式分類と、甕・壺・高杯の諸型式の遺構における共伴関係に基づいた時期区分は本地域では最初のものであった。2は佐賀県唐津市桜馬場遺跡「宝器内蔵甕棺」を後期前半新段階と位置づける。発掘調査直後の概報(唐津市第147集、2008)に基づく論であるが、正式報告書(唐津市第157集、2011)では本論文の見解が踏襲されている。弥生後期の土器編年、絶対年代の議論に必ず参照される部分であろう。
 「第II章 古式土師器の編年的研究」の1は九州の畿内系二重口縁壺、二重口縁壺形埴輪の型式分類で、九州北部の前期古墳の研究に大きなインパクトを与えた。2は1991年発表の佐賀平野における古墳初頭前後の土器編年で、方法は第I章1と同様であるが、本論文が先行する。弥生終末を惣座式1・2式、古墳時代初頭、布留0式併行期を夕ヶ里式、布留1〜3式併行期を土師本村1〜3式に分ける。また、惣座2式に吉野ヶ里遺跡の環濠埋没、夕ヶ里式に4本主柱穴方形住居、外来系土器の増加、前方後方墳の出現と集団墓の消滅をあて、古墳時代開始期の社会変化への展望を示す。その時期区分や網羅的、系統的分類は、現在でもこの地域の研究の基礎となっている。3は、2から四半世紀後に発表された古墳初頭の土器編年で、新出資料を加え、夕ヶ里式・土師本村3式をそれぞれ古相・新相に細分し、在地系土器の消長と各種の外来系土器の受容のプロセスを論ずる。
 「第III章 弥生・古墳移行期の社会変革」の1は佐賀平野の集落の展開を論じた1995年の論文で、第II章2で展望した惣座式期と夕ヶ里式期の間の画期を集落の動態から解明する。有明海に面した低平地に所在する佐賀市諸富遺跡群を吉野ヶ里遺跡に対応する港湾とする見解は、有明海沿岸地域の古墳初頭の社会像に関する議論に継承されている。また、遺跡間関係をネットワークとして捉える方法に、西アジア考古学におけるセトルメント・パターン研究にまで及ぶ氏の広い学識をうかがわせる。2は九州北部の弥生時代社会の構造に関する展望を述べる一方で、吉野ヶ里遺跡を含む志波屋遺跡群を詳細に検討する。
 「第IV章 古墳時代石製品の研究」は蒲原氏のライフワークのひとつである腕輪形石製品の研究をまとめる。1は1987年発表の石釧の型式学的分類・編年で、本格的な分析が行われていなかった石釧研究の画期となり、その後の腕輪形石製品研究の活性化を促した。また、そこで示される系統的な石釧の変遷の分析、埋葬施設内での出土状況の検討、畿内北部と南部の差、副葬品による前期古墳の細分は、精緻化が進む現在の古墳副葬品研究の先駆けとも評価できる。1991年発表の2は石釧・鍬形石・車輪石を総合的に分類、分析した上で、小林行雄らの石製品配布論を批判的に検討する。1・2から20年近くが経過した2010年に発表された3は、腕輪形石製品の研究史を総括するとともに、製作地と製作集団、配布に関する議論から1・2を補強する。腕輪形石製品に限らない古墳副葬品全般の性格に関わる論点が示され、今後も参照されるべき論文である。
 「第V章 須恵器・陶質土器と円筒埴輪の研究」の1は佐賀平野の須恵器・陶質土器に関する1985年の論文である。評者は1980年代後半に研究会で、本論文を基礎とした発表を拝聴し、当時、陶邑に先行する可能性が活発に議論されていた朝倉系初期須恵器の編年を修正する氏の冷静な姿勢に感銘を抱いた憶えがある。資料の増加した現在では、蒲原氏の編年を裏付ける事例が蓄積しており、改めて評価される必要がある。
 「第VI章 横穴式石室導入期の研究」の1は佐賀県への就職後はもちろん、学生時代も含めた自身の発掘調査の経験を基礎にした1983年の竪穴系横口式石室の研究である。九州北部の竪穴系横口式石室を小型のものに限定し、大型の初期横穴式石室との間の階層的な差を指摘する。同時期に柳澤一男氏も同様の見解を発表しているが、蒲原氏も独自の分類、分析でその結論に達していたと評価できる。ただ、現在でも竪穴系横口式石室が大型の初期横穴式石室まで含めた広い概念として用いられることが多く、本章で展開される蒲原氏の一連の研究の再評価が求められる。
 「第VII章 筑肥における古墳時代首長墓の研究」は、古墳時代社会の歴史的展開に言及する部分も多く、本書の総括としての性格もあわせ持つ。第VII章4は都出比呂志氏による首長墓系譜論を受け、佐賀平野の首長墓を10のグループに分け、各グループでの首長墓の築造順序を検討する。また、首長墓の規模からA〜Dの4クラスに分け、部族連合の首長、部族首長、氏族首長の階層差との対応を考える。『前方後円墳集成』九州編に先立つ1991年の発表で、なおかつ全国的にも都出氏の説を適用した研究として、初期のものとして評価できる。また、首長墓の調査が進展し、副葬品・埴輪等の編年研究が精緻化した現在の古墳研究においても、その編年、系譜論に大きな修正の必要がないことにも驚かされる。各地で首長墓系譜の検討が進むが、研究史の丁寧な整理を基礎に、土器・埴輪・横穴式石室・副葬品に関する分析を総合した蒲原氏のような研究こそが、確実な成果をもたらすと言えよう。ただ、それ以上に現代の古墳研究において評価すべき点は、首長墓のグループと地形や集落群との対応関係の分析、前方後円墳のみならず大型円墳を含める首長墓の階層差の把握にある。現在でもその考え方は有効であり、本書で対象とする佐賀平野や肥前の問題にとどまらず、古墳の意義とは何か、古墳時代社会をどのように捉えるかという根本的な問題に迫る重要な方向性を示していると評価できる。
 本書全体を読むと、全国的な研究動向を踏まえ、土器編年、遺物の型式学を武器に、地域の古墳、集落を研究し、全国的な議論に還元するという論理が氏の弥生・古墳時代論の柱であると分かる。土器を対象とする第I章1、第II章2と腕輪形石製品を取り上げた第IV章1・2の間で、共通する型式学的方法をみることができる。第IV章3・4、第VII章1などの研究史の丁寧な整理が氏の根底にあることも理解でき、その客観的な記述の姿勢は、研究や資料の蓄積が進む現代の考古学においてこそ範とすべきものと言える。また、基礎となる論考の多くが1980年代後半〜90年代前半に執筆されているが、第IV章1・2等での加筆にうかがえるように自身の研究をその後の研究の展開や新資料で検証する姿勢にも、学ぶべきことが多い。九州北部はもちろん、全国の弥生・古墳時代研究者に本書は参照されるべきであろう。
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