書評コーナー

第37回 2017.04.24

弥生時代人物造形品の研究
発行元: 同成社 2017/03 刊行

評者:小林青樹 (奈良大学文学部文化財学科教授)

弥生時代人物造形品の研究

著書:設楽 博己 著 石川 岳彦 著

発行元: 同成社

出版日:2017/03

価格:¥10,780(税込)

目次

序 文
第1章 東北地方の弥生土偶とその周辺
 第1節 東北地方の弥生土偶
 第2節 弥生前期の土偶
 第3節 弥生中期の土偶
 第4節 北海道地方の縄文晩期終末の土偶
 第5節 東北地方の弥生土偶と農耕文化
第2章 黥面土偶とその周辺
 第1節 研究略史
 第2節 黥面土偶の類型と年代と分布
 第3節 黥面土偶の諸系列
 第4節 黥面の系譜
第3章 副葬される土偶
 第1節 土偶の役割
 第2節 土偶副葬の系譜
 第3節 土偶の副葬の背景と再葬
第4章 土偶形容器考
 第1節 土偶形容器の起源をめぐって
 第2節 土偶形容器の諸系列と年代
 第3節 土偶形容器の出自と性格
第5章 神奈川県中屋敷遺跡出土土偶形容器の年代
 第1節 中屋敷遺跡出土の土偶形容器をめぐって
 第2節 中屋敷遺跡出土土器の特徴と年代
 第3節 中屋敷遺跡出土土偶形容器の年代
第6章 人面付土器の諸類型
 第1節 人面付土器の分類
 第2節 人面付土器Jについて
 第3節 人面付土器A
 第4節 人面付土器B
 第5節 人面付土器W
第7章 土偶形容器と人面付土器の区分
 第1節 土偶形容器における製作技術の二者
 第2節 黥面付土器の用語の再検討と人物造形品の分類
第8章 西日本と中部高地地方の弥生土偶
 第1節 北部九州地方
 第2節 中国地方
 第3節 近畿地方・中部高地地方
第9章 分銅形土製品に対する一考察
 第1節 研究略史
 第2節 分銅形土製品の変遷と分布
 第3節 分銅形土製品の性格
 第4節 分銅形土製品の起源に関する近年の研究
第10章 木偶と石偶
 第1節 弥生時代の木偶
 第2節 弥生時代・続縄文文化の石偶
第11章 偶像の農耕文化的変容
 第1節 問題の所在
 第2節 東日本の男女像の系譜
 第3節 東日本における男女像成立の契機
 第4節 生業からみた縄文/弥生時代の男女関係
 第5節 男女像形成の背景
第12章 人面付土器Cから盾持人埴輪へ
 第1節 女方遺跡と有馬遺跡の人面付土器
 第2節 有馬遺跡の人面付土器の類例と系譜
 第3節 人面付土器Cと盾持人埴輪の共通点
 第4節 盾持人埴輪と人面付土器Cの性格
 第5節 盾持人埴輪の遡源
第13章 方相氏の伝来と仮面
 第1節 問題の所在
 第2節 中国における方相氏の資料
 第3節 盾持人埴輪と方相氏
 第4節 弥生時代の方相氏関係資料
 第5節 日本列島における方相氏に関する思想の導入とその意義
第14章 中国東北地方における先史時代の人物造形品
 第1節 中国先史時代の人物造形品と中国東北地方
 第2節 中国東北地方新石器時代の人物造形品
 第3節 中国東北地方青銅器時代の人物造形品
 第4節 中国東北地方先史時代人物造形品の展開と特徴
終 章 弥生時代における人物造形品の特質
 第1節 台式土偶の広域性
 第2節 農耕文化と土偶
 第3節 男女像の成立と人物造形品の多様化
参考文献
出典一覧
資料編
 弥生時代人物造形品集成図(図31〜図79)
 弥生時代人物造形品集成一覧表
 弥生時代人物造形品および関連資料の集成参考文献
 弥生時代人物造形品分布図(図80〜図82)
おわりに
索 引

 先史時代の日本列島では、縄文時代以降に様々な人物をかたどった造型品がつくられたが、弥生時代になると実に多くの人物造型品がつくられた。このたび、こうしたバラエティーに富む弥生時代の人物造型品に関し、設楽博己氏と石川岳彦氏によって網羅的な全国的資料集成と最新の研究成果を合わせた労作が刊行された。資料集成は、土偶、土偶形容器、人面付き土器、分銅形土製品、木偶、石偶、仮面など609点に及び、多数の引用参考文献と細かい分布図がつけられており、当該研究をするものにとって貴重な資料集であろう。論考編も、弥生時代だけでなく縄文時代や古墳時代にも関わり、さらに中国東北地方の新石器時代から青銅器時代まで検討されており、非常に充実している。
 以下に簡単に内容を紹介したい。まず設楽氏による論考は、黥面土偶、土偶形容器、人面土器、方相氏といったこれまでに発表されたものに加え、分銅形土製品や西日本の土偶、人面土器についての新稿からなる。これらの人物造型品は、縄文文化の土偶をベースに大陸の影響による変容によって形成されていったと考えることができるが、実はその成立は複雑で、さらに広域な地域間交流のもとに形成されている、というのが本書の趣旨である。設楽氏は、こうした人物造型品について、西日本から東北にまで関連したダイナミックな交流の実像を論じている。興味深い論考が多々あり、ここではすべてを紹介できないが、特に西日本の人面付き土器で顔面が斜め上を向く形態が西日本の弥生文化の特徴であることを明らかにした論考は、今回の全国集成で明らかとなった設楽氏の興味深い新説である。
 設楽氏は、西日本系の遠賀川系土器を出土し、いち早く稲作を受容した東北の弥生土偶に顔面が斜め上を向くという西日本の特徴があることに気がついた。そして、一方で稲作を受容しないアワ・キビ農耕を行う関東の人面付き土器の顔は、晩期のミミズク土偶の系譜を引いており正面を向いている、という事実を明らかにしたのである。なぜ、弥生系は斜め上を向くのか、そして、その目線の先には何があるのかが非常に気になるが、このような発想の種が本書の資料集成のなかに多数潜んでいそうで気になってしようがない。
 論考の後半は、設楽氏による弥生時代に出現する男女像の問題が中心であるが、それに続く石川氏による中国東北地方における新石器時代から青銅器時代の男女像の論考によってこの方面の研究が大きく前進した。男女像の問題とは、縄文時代には生業体系などから土偶が女性に偏るのに対し、農作業という協業の側面が前面に出てくる農耕文化では男女像が生まれ、西日本では男女一対の木偶や石偶が出現し、東日本でも土偶形容器が男女一対で出土するようになるというものである。今回、本書における石川氏の論考によって、中国東北地方における新石器時代から青銅器時代への社会の変化の過程でも、こうした男女像の変化が同じように見られることが明らかとなったのである。
 本書では、古墳時代に関わる論考と資料も収載されている。設楽氏による東日本の異形な人面付き土器Cが、古墳時代の盾持ち人埴輪と関連し、さらにそれが漢の時代に葬送や追儺を担った「方相氏」と関連するであろうというものである。資料集にも収載されている弥生時代最末期の奈良県纒向遺跡では、方相氏の存在を想起させるような木製仮面と戟の柄と盾の組み合わせが出土している。この組み合わせは、弥生時代中期の絵画にみられる鳥装の戦士を彷彿とさせる、と設楽氏は考えたが、評者もその考え方に賛同する。なお、纒向遺跡の木製仮面は、その後、古墳時代前期の盾持ち人埴輪の顔面表現に変化する点も見逃せない重要な注目点であろう。
 以上のように、本書は弥生時代の人物造型品と題しているが、縄文・弥生・古墳のすべての時代に関連した論考と資料集からなる。したがって、本書は、弥生時代だけでなく、縄文時代、そして古墳時代に関心のある読者にも一読することを強くおすすめしたい。さらに、国内だけでなく、中国東北地方の新石器時代から青銅器時代の人物造型品についても集成がはかられており、東アジアの考古学に関心のある読者にとっても有益なものとなるであろう。

弥生時代人物造形品の研究

著書:設楽 博己 著 石川 岳彦 著

発行元: 同成社

出版日:2017/03

価格:¥10,780(税込)

目次

序 文
第1章 東北地方の弥生土偶とその周辺
 第1節 東北地方の弥生土偶
 第2節 弥生前期の土偶
 第3節 弥生中期の土偶
 第4節 北海道地方の縄文晩期終末の土偶
 第5節 東北地方の弥生土偶と農耕文化
第2章 黥面土偶とその周辺
 第1節 研究略史
 第2節 黥面土偶の類型と年代と分布
 第3節 黥面土偶の諸系列
 第4節 黥面の系譜
第3章 副葬される土偶
 第1節 土偶の役割
 第2節 土偶副葬の系譜
 第3節 土偶の副葬の背景と再葬
第4章 土偶形容器考
 第1節 土偶形容器の起源をめぐって
 第2節 土偶形容器の諸系列と年代
 第3節 土偶形容器の出自と性格
第5章 神奈川県中屋敷遺跡出土土偶形容器の年代
 第1節 中屋敷遺跡出土の土偶形容器をめぐって
 第2節 中屋敷遺跡出土土器の特徴と年代
 第3節 中屋敷遺跡出土土偶形容器の年代
第6章 人面付土器の諸類型
 第1節 人面付土器の分類
 第2節 人面付土器Jについて
 第3節 人面付土器A
 第4節 人面付土器B
 第5節 人面付土器W
第7章 土偶形容器と人面付土器の区分
 第1節 土偶形容器における製作技術の二者
 第2節 黥面付土器の用語の再検討と人物造形品の分類
第8章 西日本と中部高地地方の弥生土偶
 第1節 北部九州地方
 第2節 中国地方
 第3節 近畿地方・中部高地地方
第9章 分銅形土製品に対する一考察
 第1節 研究略史
 第2節 分銅形土製品の変遷と分布
 第3節 分銅形土製品の性格
 第4節 分銅形土製品の起源に関する近年の研究
第10章 木偶と石偶
 第1節 弥生時代の木偶
 第2節 弥生時代・続縄文文化の石偶
第11章 偶像の農耕文化的変容
 第1節 問題の所在
 第2節 東日本の男女像の系譜
 第3節 東日本における男女像成立の契機
 第4節 生業からみた縄文/弥生時代の男女関係
 第5節 男女像形成の背景
第12章 人面付土器Cから盾持人埴輪へ
 第1節 女方遺跡と有馬遺跡の人面付土器
 第2節 有馬遺跡の人面付土器の類例と系譜
 第3節 人面付土器Cと盾持人埴輪の共通点
 第4節 盾持人埴輪と人面付土器Cの性格
 第5節 盾持人埴輪の遡源
第13章 方相氏の伝来と仮面
 第1節 問題の所在
 第2節 中国における方相氏の資料
 第3節 盾持人埴輪と方相氏
 第4節 弥生時代の方相氏関係資料
 第5節 日本列島における方相氏に関する思想の導入とその意義
第14章 中国東北地方における先史時代の人物造形品
 第1節 中国先史時代の人物造形品と中国東北地方
 第2節 中国東北地方新石器時代の人物造形品
 第3節 中国東北地方青銅器時代の人物造形品
 第4節 中国東北地方先史時代人物造形品の展開と特徴
終 章 弥生時代における人物造形品の特質
 第1節 台式土偶の広域性
 第2節 農耕文化と土偶
 第3節 男女像の成立と人物造形品の多様化
参考文献
出典一覧
資料編
 弥生時代人物造形品集成図(図31〜図79)
 弥生時代人物造形品集成一覧表
 弥生時代人物造形品および関連資料の集成参考文献
 弥生時代人物造形品分布図(図80〜図82)
おわりに
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