HOME書評リレー > 書評: 縄紋時代の実年代 土器型式編年と炭素14年代

第40回 (2017,11,22)
小林謙一 著 『縄紋時代の実年代 土器型式編年と炭素14年代』

評者: 國木田大 (東京大学大学院人文社会系研究科特任助教)

書名 縄紋時代の実年代 土器型式編年と炭素14年代
著者 小林謙一 著
発行元 同成社
出版日 2017/10
価格 5,184

縄紋時代年代研究の一つの到達点

目次を表示>>

1章 炭素14年代測定研究の概要
 1節 縄紋時代研究における炭素14年代測定の研究動向
 2節 炭素14年代測定の方法と較正年代
 3節 海洋リザーバー効果の影響
2章 縄紋時代前半期の実年代
 1節 研究の方法と試料
 2節 縄紋時代草創期の年代測定
 3節 縄紋時代早期の年代測定
 4節 縄紋時代前期の年代測定
 5節 縄紋時代前半期の年代
 6節 縄紋時代前半期の実年代研究の展望
3章 縄紋時代中期の実年代
 1節 多摩武蔵野地域を中心とした縄紋時代中期土器編年
 2節 縄紋時代中期の実年代推定――竪穴住居跡出土試料による測定研究――
 3節 関東地方縄紋時代中期の編年細別研究と実年代比定
4章 縄紋時代後期の実年代
 1節 測定試料と方法
 2節 関東地方縄紋時代後期前葉の年代測定
 3節 千葉県西根遺跡の年代測定研究――関東地方縄紋時代後期中葉の年代測定――
 4節 ウイグルマッチングによる年代比定
 5節 関東地方縄紋時代後期の実年代推定
5章 縄紋時代晩期から弥生時代の始まりの実年代
 1節 関東地方における弥生移行期の年代測定研究
 2節 関東地方での測定事例
 3節 年輪試料によるウイグルマッチング
 4節 東北地方および他地域との対比
 5節 東北・関東地方の縄紋時代晩期から弥生時代の実年代
6章 縄紋時代の実年代研究の展望
 1節 縄紋時代の実年代
 2節 縄紋竪穴住居の埋没を中心とした居住システムの年代的検討 
 3節 盛土遺構構築の時間的検討
 4節 縄紋文化の年代的再構成に関する予察
付表 縄紋土器型式編年と炭素14年代・較正年代

 AMS法(加速器質量分析計Accelerator Mass Spectrometry)を用いた炭素14年代測定法による高精度年代編年が進展し、縄紋文化も世界の新石器文化と同様の年代体系の中で議論が可能となってきた。本書は、縄紋時代の実年代を土器型式編年と炭素14年代に基づいて解明するものであり、2017年11月1日に同成社より刊行された。列島各地で出土する土器付着物等の炭素14年代測定例3287点の分析から較正年代を算出し、縄紋時代13,000年間の土器型式別実年代の検証成果をまとめたものであり、縄紋研究者にとって必読書と言える。
 著者は2002年より年代測定研究を開始し、多くの研究者と共同研究を進め、成果を蓄積してきた。2003年に発表した学位論文を、翌年に『縄紋社会研究の新視点―炭素14年代測定の利用―』として刊行し、日本における気鋭の年代研究者として脚光を浴びた。国立歴史民俗博物館の研究チームによる『縄文時代・弥生時代の高精度編年体系の構築』プロジェクト等の中心メンバーとして参画し、膨大な数の論考を発表してきた。本書はこれら業績をまとめあげた労作であり、現在の縄紋時代年代研究の一つの到達点と評価できる。これまで多くの研究者が著者の設定した縄紋時代の時期区分(小林2008)を引用していると思われるが、その具体的な内容を把握する意味でも重要である。
 本書は全6章で構成されており、1章で研究史や方法論が整理され、2〜5章が時期別の各論、6章が研究のまとめと展望になる。2〜5章では、小林(2008)の年代設定を一部見直し、新たな縄紋時代の実年代区分を提示している。これらの根拠となる年代データに関しては、本文中で核となる遺跡が詳述されているだけでなく、付表にて地域や時期別の一覧表が付されている。また、データベースに関しては中央大学の著者の研究室HPに掲載されている。このような基礎情報の丁寧な開示は、実年代区分作成の過程を追認する上で重要であり、説得力もある。以下に本書の内容を簡単に紹介してみたい。
 1章では、縄紋時代における炭素14年代法の研究史を概観し、課題や展望を述べるとともに、暦年較正、試料処理、海洋リザーバー効果について言及している。研究史に関しては、山本直人氏のこれまでの論考に若干の修正を加え、1期を夏島貝塚の測定まで、2期を短期編年と長期編年の論争、3期を縄紋研究との遊離化とAMS14C年代測定の出現、4期を新たな研究動向、に区分している。課題および展望では、測定値の扱いや研究の方向性が詳述されている。
 2章では、縄紋時代前半期(草創期・早期・前期)の実年代が提示されている。草創期を隆線文〜多縄紋(S1期〜S2期:15,540-11,345calBP)、早期を撚糸紋〜条痕紋(S3期〜S8期:11,345-7,050calBP)、前期を花積下層式〜十三菩提式(Z1期〜Z7期:7,050-5,415
calBP)と設定している。著者は大平山元I遺跡の無紋土器段階を旧石器時代晩期と捉え、S0期(15,860-15,540calBP)として評価している。縄紋時代草創期初めの年代としては、東京都御殿山遺跡を基準としている点は、注意が必要である。
 3章では、縄紋時代中期の実年代が提示されている。当該時期の土器編年は、著者らが精力的に研究に取り組んでいる「多摩丘陵・武蔵野台地を中心とした縄文時代中期の時期設定」(通称「新地平編年」)を基準としている。西関東地方の土器編年に馴染みのない読者は困惑するかもしれないが、最も精緻な縄紋時代中期の土器編年との年代対比は意欲的であり、今後広域編年と議論する上でも重要な意味をもつだろう。中期の時期区分は五領ヶ台1式〜加曽利E4式(曽利V式)新地平13a〜b期(C1期〜C13期:5,415-4,490
calBP)と設定されている。註にて、旧稿の小林(2008)も提示されているため、修正された箇所が理解し易い。3章以降の縄紋時代中期・後期・晩期から弥生では、ウイグルマッチングの研究成果が充実しており、暦年較正との年代関係の把握が容易である。また、著者のこれまで研究してきた火災住居の一括炭化材、住居内層別出土炭化材のケーススタディも紹介され、理解を深める一助となっている。
 4章では、縄紋時代後期の実年代が提示されている。後期の時期区分は、称名寺式〜後期安行式(K1期〜K8期:4,490-3,220calBP)と設定されている。本章では、神奈川県稲荷山貝塚、千葉県西根遺跡等の研究事例が紹介され、主に堀之内式や加曽利B式の年代について議論が展開されている。
 5章では、縄紋時代晩期から弥生時代の始まりの実年代が提示されている。読者もご存知の通り、2003年に発表された国立歴史民俗博物館の研究チームによる弥生開始年代論にも関連するテーマである。著者は、東北地方や関東地方を中心に、晩期を大洞B式〜大洞A´式(B1期〜B6期:3,220-2,385calBP)と設定している。弥生前期末(砂沢式・青木畑式)は、2,400-2,305calBPとしている。評者も以前、砂沢式の年代を検討したことがあるが、この年代設定には概ね賛同である。また、関東地方も測定数が少ないながら検討が加えられている。荒海式(大洞A´式並行)を2,360calBP頃までと考え、弥生前期(中屋敷遺跡)を前5世紀末葉〜前4世紀前半、弥生中期前半(中里遺跡・志摩城遺跡ほか)を前4〜3世紀と想定している。
 6章では、1節でこれまで展開してきた縄紋時代の実年代の議論を要約している。2・3節では、著者が進めてきた居住システムや盛土遺構の時間的検討が紹介され、遺跡形成過程の解明に対して、炭素14年代のもつ意義が説明されている。福島県井出上ノ原遺跡、埼玉県水子貝塚、千葉県三輪野山貝塚、北海道キウス遺跡等の事例であり、読者も一度は目にされたことがあるだろう。4節では、「縄紋文化の年代的再構成に関する予察」と題して、極めて重要な指摘がなされている。著者は上述の通り、縄紋時代草創期の始まりの画期として、列島全体に広まった隆線文土器の成立をもって考えるべきと論じている点は、興味深い。また、縄紋時代中期の土器型式の時間幅が、中期初頭から前葉にかけては1細別時期にすると10〜30年と早く、勝坂式最盛期および加曽利E式最盛期では50〜100年と長い時期を含んでいることを指摘している。もちろん、これらの推定に関しては暦年較正年代の解釈等の批判があろうと思うが、踏み込んで考察を行っている点は、今後の議論には意義深いことだと評者は感じる。最後に、多くの読者が期待する縄紋から弥生への文化変容の時間的推移に関して論じている。この部分はできれば本書を手に取って直接読んで頂きたいと思う。著者は、弥生開始年代論において、弥生早期を認める立場をとる。そして、現時点で弥生早期は九州西北部に限定し、その他の地域は縄紋晩期文化すなわち総体として縄紋時代に含めることを主張している。この考えは、藤尾慎一郎氏の九州北西部に水田技術が伝播した時点をもって日本列島は弥生時代に入ったとする説(琉球諸島・北海道は除く)より、設楽博己氏の「渡来系弥生文化」と「縄文系弥生文化」を別に捉え、地域ごとに水田稲作が受容された段階をもって弥生時代とする説に近い。結果的に、広域編年的には傾斜編年となってしまうわけだが、これらの見解に至るためには、著者の精緻な縄紋時代の実年代構築があってこそだと考えられ、敬意を表さずにはいられない。
 著者もあとがきで述べているように、本書のデータは東日本、特に関東を中心に中部・東北部を主として取り扱っており、西日本の読者にとっては不満の残るところであると思う。日本列島全体での構築にはまだ道半ばであるため、今後のさらなる研究の進展を期待したい。また、近い将来、本書の英語版が執筆され、グローバルな年代の枠組みで縄紋文化が議論されることを切に願う。本書は縄紋研究を志すものだけでなく、縄紋および弥生文化に関心のある方にも一読することを強くおすすめしたい。
 最後に、著者は昨年2016年の3月31日 にも『縄文時代の食と住まい』を刊行している。同ホームページでも櫻井準也氏による書評が掲載されているので、あわせてご参照頂ければ幸いである。なお、本レビューの「縄文」に関しては、著者の「縄紋」に統一して記述した。

【参考文献】
小林謙一 2004『縄紋社会研究の新視点―炭素14年代測定の利用―』六一書房。
小林謙一 2008「縄文時代の暦年代」『縄文時代の考古学2 歴史のものさし―縄文時代研究の編年体系―』pp.257-269,同成社。
小林謙一編 2016『縄文時代の食と住まい』同成社。

その他のおすすめ図書について

その他おすすめ図書

閉じる×

共用PCで自動ログイン機能は
使わないでください

職場、学校、ご家族でご利用など
共用でご利用のパソコンでこの機能をお使いになりますと
他の方があなたの情報でログインしてしまう可能性があり

可能性がございます。

自動ログインの解除は会員ログアウトを押していただきますと
次回アクセス時から自動でログインされなくなります

閉じる×

図書の入荷をメールにてお知らせいたします。

お知らせを送信するメールアドレスを入力し登録ボタンをクリックしてください。