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第58回 (2019,08,16)
桜井 準也 著 『増補 ガラス瓶の考古学』

評者: 角南聡一郎 (公益財団法人元興寺文化財研究所・総括研究員)

書名 増補 ガラス瓶の考古学
著者 桜井 準也 著
発行元 六一書房
出版日 2019/05
価格 3,780

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増補版刊行にあたって
はじめに
第1章 なぜガラス瓶なのか
第2章 ガラス瓶の概要
 第1節 ガラス瓶の歴史
 第2節 ガラス瓶の原料と製造技術
 第3節 ガラス瓶の諸特徴
第3章 ガラス瓶調査の方法
 第1節 文献等の調査
 第2節 資料の調査
第4章 ガラス瓶の種類と出土資料
 第1節 ガラス瓶の分類
 第2節 ガラス瓶の種類とその特徴
 第3節 ガラス瓶の変遷
第5章 近現代遺跡とガラス瓶
 第1節 近現代遺跡出土のガラス瓶
 第2節 遺跡の性格と出土ガラス瓶
第6章 ガラス瓶の諸相
 第1節 ガラス瓶の形態と機能
 第2節 ガラス瓶の用途と色調
 第3節 ガラス瓶のデザインと記号
 第4節 流用されるガラス瓶
 第5節 消えゆくガラス瓶
おわりに
参考文献
附編 コーラ瓶の型式学
資 料

 本書の初版が刊行されたのは、2006年5月であったので、13年後の増補版ということになる。初版は好評で品切れとなっていたという。本書の構成は以下の通りである。増補版刊行にあたって、はじめに、第1章 なぜガラス瓶なのか、第2章 ガラス瓶の概要、第3章 ガラス瓶調査の方法、第4章 ガラス瓶の種類と出土資料、第5章 近現代遺跡とガラス瓶、第6章 ガラス瓶の諸相、おわりに、附編 コーラ瓶の型式学。まず、それぞれの概要を見ておきたい。
 本書の特徴は、近現代遺跡から出土するガラス瓶を、考古学的方法を用いて論じたものである。そもそも著者がガラス瓶に注目したのは、自らが携わった発掘調査によってである(評者もまたそうである)。その一つであり、本書でも出土資料についてたびたび言及されている、神奈川県三浦市ヤキバの塚遺跡の調査は、2002年に開始されている(桜井ほか 2003)。第1章で、遺跡出土のガラス瓶は近現代消費生活を探る遺物だけでなく、近代ガラス工業における技術革新や近現代の消費生活の一端を雄弁に物語る貴重な資料であることから、本書で研究対象として取り上げるとする。続く第2章では、「第1節 ガラス瓶の歴史」でガラスの誕生から、弥生時代のわが国への渡来、断絶を経て、江戸時代のガラス瓶の伝来、そして現代に至るまでの歴史を概観する。「第2節 ガラス瓶の原料と製造技術」、「第3節 ガラス瓶の諸特徴」では、製造サイドの立場を引用しながら、ガラス瓶について概説をおこなっている。第3章では、ガラス瓶調査の方法として、文献等の調査と実物資料の調査を示した。後者で博物館所蔵資料のほかに、ガラス瓶コレクターが存在すること、骨董店や骨董市でラベル付や箱入りのガラス瓶を購入し、発掘資料と比較することを勧めている。第4章では、主に発掘調査によって得られたガラス瓶資料を考古学的に研究することを念頭において、ガラス瓶を分類し、この分類に沿って概略を述べている。その上で、近現代ガラス瓶の変遷を概観し、近現代遺跡から出土したガラス瓶の変遷状況を検討した。第5章では、遺物としてのガラス瓶の学問的有効性を探るため、近現代遺跡から出土したガラス瓶の内容が、その遺跡の性格を反映するものであるかどうかを検討した。この結果、時期による違いはあるものの、ガラス瓶は基本的に各遺跡の性格を反映しており、出土した遺跡の性格を雄弁に物語る資料であることを確認している。
 第6章では、ガラス瓶の形態と機能、色調、デザインと記号について検討した。続いてガラス瓶が、容器として再利用、転用される他、花瓶、花壇の境界などとして転用されることをあげ、ガラス瓶は生産者の意図を超えて流用される物質資料であり、この問題は物質文化研究の中でガラス瓶を捉えていくためにも無視できない問題である。現代生活においてガラス瓶が使用されることは極端に限られてきており、21世紀を迎えた現代ではガラス瓶は既に「過去の遺物」となりつつあると述べている。
 おわりにでは、近現代という「新しい時代」の生産物であるにも関わらず、ガラス瓶が用いられた商品に関する情報が極めて乏しいことがわかったとする。以下は著者のちょっとしたカミングアウトである。
   箱やラベルを伴わない遺跡出土のガラス瓶の場合は、その形態のみからで商品名ど  ころか内容物を特定することすら難しいことも痛感した。(中略)その結果、未知の  ガラス瓶の情報を求めてガラス瓶を収集する博物館を回ったり、骨董市でラベル付き  の資料を購入したりすることになる。
 これは考古学者とコレクターとの接点という意味で傾聴に値する独白である。
 附編では、ガラス瓶に代わる素材として、スチール缶やペットボトルにも言及をしていることが注目される。これはポストガラス瓶の考古学への序章ともとれる。またコーラ瓶の型式学の考え方は、現代の物質資料だけでなく、漫画やアニメのキャラクター(デザイン)にも適用できるとして、鈴木公雄が縄文土器の概説において型式学の説明に、ミッキーマウスを例示したことを取り上げている。このことは考古学の型式学が、現代物質文化研究にとっても極めて有用であることを示している。個々のガラス瓶のデザインという点で象徴的な存在として「コカ・コーラ」瓶があげられることを、第6章第3節で既に指摘しており、それを受けて、附編で述べられたものと考えられる。縄文時代研究者でもある著者にとって、師にあたる鈴木公雄の歴史考古学研究の影響が少なくないことがわかる。著者は別稿で鈴木が果たせなかった、新しい時代の考古学に関する著作を継承して発展させたい旨を述べている(桜井 2007)。そのような意味でも、附編が加わった増補版は著者の思いの全てが加わった完全版といえよう。
 次に本書初版が学会や社会に与えた影響を、管見に触れた2007年〜2019年までのガラス瓶研究の動向を追いながら垣間見てみよう。
 近現代考古学という概念が定着していった当初は、発掘調査など近現代考古学の実践は東高西低という状況にあった。しかしながら近年は西日本でも近現代資料が調査対象となってきている。現にガラス瓶も報告されることが当たり前となってきた(瀬戸編 2019、多賀ほか 2019など)。これを受けて、本書初版が刊行されて以降、各地で際立って考古学者によるガラス瓶研究が増加している(小澤 2008、鹿島 2018、関広 2017、森 2017、吉成・筒井・横山 2016)。ガラス瓶が遺跡から出土する確率がかなり高いことから、必然的に注目される場合も多くなる。考古学者が近現代のガラス瓶の検討を試みていることが、民俗学者よりも圧倒的に多数なのは発掘調査に起因するものであろう。この他には松本友里による歴史学的立場からの牛乳瓶研究があげられる(松本 2013、松本 2014、松本 2016)。しかしながら、民俗学、民具学からのガラス瓶研究は、極めて少ないと言わざるをえない状況だろう。
 本書では考古学的及び文献史学的手法を中心に紹介がなされていた。この他の方法として、民俗学で多用される聞き取りがある。出土ガラス瓶の聞き取り調査については、若い世代の考古学研究者によって試みられている(平川 2018)。このような試みは、民俗学者、民具学者にもガラス瓶研究ができる可能性を示しており、具体的な調査研究が待たれる。
 熊谷市立江南文化財センター(2014)(熊谷市立江南文化財センター 2014)や盛岡市遺跡の学び館(2019)(神原 2011)など各地で、出土ガラス瓶の展示が開催されている。このような試みは以前では考えられなかったことだ。ガラス瓶の初期のものには地域性がある。つまりガラス瓶は地域ブランドであったのだ。そのような意味でも出土ガラス瓶の展示は地元受けする場合が多い。このような見解は、ガラス瓶がパブリック・アーケオロジーの対象と成りうることを意味している。
 また、本書でも紹介されているように、ガラス瓶には数多くのコレクターが存在する(平成ボトル倶楽部監修 2017)1。びん博士の愛称で知られるガラス瓶コレクター/研究者の庄司太一は、自宅に私設博物館ボトルシアターを設置しコレクションの一部の公開をしている。庄司による一連の著作はコレクターのバイブルであり(庄司 1997、庄司 2001、庄司 2007、庄司 2008、庄司 2009、庄司 2010a)、現在も庄司は『原色日本壜図鑑』を刊行中である(庄司 2010b、庄司 2010c、庄司 2011、庄司 2012、庄司 2013)。また、水戸市立博物館(水戸市立博物館編 2007)、石川県能登島ガラス美術館(床坊編 2009)、杉並区立郷土博物館(杉並区立郷土博物館分館編 2009)などのガラス瓶展は庄司のコレクションを借用して開催されたものである。2019年に並木橋オールドハウスで開催された、日本ガラスびん協会主催の「ガラスびんテージハウス」も、庄司のコレクションを展示したものである。著名人にもコレクターは存在する。2016年に関西大学博物館で開催された「なごみのガラス―坂崎幸之助 和ガラスコレクション―」は、ミュージシャン・坂崎幸之助のコレクションを公開したものだ。
 このような状況は出土資料(考古資料)だけではなく、伝世資料で構成された展示の注目度が高いことを物語っている。パブリック・アーケオロジーの素材としてのガラス瓶は、出土資料に限定されることなく伝世資料とともに意味を成すことが肝要であろう。海外ではコレクターや愛好家によってボトルディギング(bottle digging、地権者の許可を得て行う古瓶の発掘)といったこともなされている。こうした営為は、考古学者とコレクターが極めて接近した関係にあることを明示している。この問題と関連して、わが国に先行して存在し考古学者やコレクターによって論じられている、アメリカをはじめとした国外のガラス瓶研究(Lorrain 1968など)との、比較や接合も期待される。
 以上のように、初版『ガラス瓶の考古学』が、研究者やコレクターに与えた影響は計り知れず、社会的にも注目されてきたことがわかる。今回の増補版の刊行によって新たなる読者を獲得することは間違いないだろう。
【註】
1 本書の参考文献の一つとして『ガラス瓶の考古学』があげられている。このことはコレクターの間でも本書が古典となっているからだろう。

【参照文献】
小澤太郎 2008「ガラス瓶からくるめの近代を探る」『久留米市文化財保護年報』4久留米市文化観光部文化財保護課 pp.56-59
鹿島昌也 2018「病院銘の陶磁器について」『富山城跡発掘調査報告書』富山市教育委員会埋蔵文化財センター pp.58-63
神原雄一郎 2011『盛岡の地中から発見されたガラス瓶−明治から昭和にかけてのガラス瓶−』 盛岡市遺跡の学び館
熊谷市立江南文化財センター 2014『遺跡出土ビン展−わが街熊谷遺跡めぐり−』
桜井準也 2007「はじめに」『近世・近現代考古学入門』 慶應義塾大学出版会 pp.?-?
桜井準也ほか 2003『漁村の考古学』 三浦の塚研究会
庄司太一 1997『びんだま飛ばそ』 パルコ出版
庄司太一 2001『平成ボトルブルース』 廣済堂出版
庄司太一 2007「歯薬壜覚書」『骨董縁起帳』 2007(秋冬) pp.54-89
庄司太一 2008「皮膚病良薬「イヒチオール」壜覚書」『骨董縁起帳』2008(春夏) pp.49-60
庄司太一 2009「養蚕活桑器」『骨董縁起帳』2009(春夏) pp.36-72
庄司太一 2010a「「クリマグ」と「ミルマグ」の物語−その似通った二つのびんにおける関係性についての覚書−」『骨董縁起帳』17 pp.61-76
庄司太一 2010b『原色日本壜圖鑑第〇巻【はじめに】』 ボトルシヰアター
庄司太一 2010c『原色日本壜圖鑑第一巻【イヒチオールびん篇】』 ボトルシヰアター
庄司太一 2011『原色日本壜圖鑑第二巻【育蠶活桑器びん篇】』 ボトルシヰアター
庄司太一 2012『原色日本壜圖鑑第三巻【萬能藥神薬びん上篇】』ボトルシヰアター
庄司太一 2013『原色日本壜圖鑑第三巻【萬能藥神薬びん下篇】』ボトルシヰアター
杉並区立郷土博物館分館編 2009『硝子壜の残像−ガラスびんに映った杉並の風景−』 杉並区立郷土博物館
鈴木公雄 1981「形式・型式」『縄文土器大成』4 講談社 pp.159-164
関広尚世 2017「「京都牧畜場」銘ガラス瓶について」『洛史』11 pp.89-95
瀬戸哲也編 2019『神山古集落』 沖縄県立埋蔵文化財センター
多賀茂治ほか 2019『神屋町遺跡』 兵庫県教育委員会
床坊睦美編 2009『ガラスびん展−時代をうつすガラスたち−』石川県能登島ガラス美術館
平川ひろみ 2018「近現代考古資料としてのガラス瓶と島民の記憶−三島村黒島大里遺跡出土遺物の考古学的記録、オーラル・ヒストリー、アイデンティティの再構築−」『日本情報考古学会講演論文集』20 pp.12-17
平成ボトル倶楽部監修 2017『日本のレトロびん』 グラフィック社
松本友里 2013「牛乳瓶の始まりを探して」『民具マンスリー』46-4 pp.1-10
松本友里 2014「明治時代の牛乳販売における硝子瓶使用の広がり」『民具マンスリー』47-7 pp.1-8
松本友里 2016「明治時代後期における牛乳殺菌処理の導入と牛乳瓶」『民具マンスリー』49-1 pp.1-8
水戸市立博物館編 2007『硝子壜の博物誌』 水戸市立博物館
森貴教 2017「牛乳瓶の分類と編年−福岡県を対象として−」『民具マンスリー』 50-6 pp.1-10
Lorrain, Dessamae 1968 "An Archaeologist´s Guide to Nineteenth Century American Glass", Historical Archaeology, Volume 2, Issue 1, pp 35−44
吉成承三・筒井三菜・横山藍 2016「ガラス瓶からみる近代の高知」『西浦遺跡』高知県教育委員会 pp52-54
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