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第57回 (2019,04,09)
白石浩之 編 『旧石器時代文化から縄文時代文化の潮流―研究の視点―』

評者: 阿部朝衛 (帝京大学文学部 教授)

書名 旧石器時代文化から縄文時代文化の潮流 研究の視点
著者 白石浩之 編
発行元 六一書房
出版日 2018/12
価格 14,040

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藤澤良祐  刊行にあたって

第I部 旧石器時代文化の研究
 木村英明  ヤナ遺跡群と人類の極北進出時期をめぐる問題(再論)
 御堂島正  黒曜岩の被熱による光沢消失とその要因
        ―X 線回折分析と元素マッピング分析―
 加藤悠雅  大林A 遺跡出土石器にみられる傷の由来は何か―実験考古学的手法から―
 荒井幹夫  旧石器時代の描像(その一)
 齊藤基生  岐阜県多治見市内の「前期旧石器」再検討
        ―西坂遺跡A 地点を中心にして―
 織笠明子  石器製作技術の研究―その学史的検討(4)―
 小田静夫  武蔵野台地が語る日本の旧石器文化
 出居 博  後期旧石器時代前葉に出現した集落
        ―上林遺跡出土の「ナイフ状石器」類再考―
 西井幸雄  黒曜石と安山岩の台形様石器
 小菅将夫  打越型ナイフ形石器の再検討
 鈴木次郎  南関東におけるナイフ形石器文化後半の石刃石器群
        ―相模野第IV期前半石器群の多様性について―
 伊藤 健  樋状剥離を有する尖頭器の編年と変遷(2)
 比田井民子 後期旧石器時代後半の南関東地方における石皿・磨石文化
 川道 寛  青い黒曜石のふるまい―西北九州における淀姫系黒曜石の需給関係―
 杉原敏之  九州の尖頭器石器群と狩猟集団
 木崎康弘  九州の先土器時代研究における,発掘者談話会と白石浩之の研究史的役割
 荒井信貴  矢作川流域のチャート製石器について
 平井義敏・神取龍生 愛知県における旧石器時代の石材
        ―「白色風化石材」の原産地と分類―
 藤山龍造  原産地遺跡への眼差し―白滝遺跡群の外来石材とその展望―
 佐藤雅一  大刈野遺跡の理解に向けて―新潟県魚沼地方の活動痕跡―
 白石浩之  石槍石器群の多様性と構造的問題

第II部 縄文時代文化の研究
 岡本東三  本ノ木遺跡の原風景―失われた時を求めて―
 舘山友香理 縄文時代草創期における青森県内の石器について
 戸田哲也  隆起線文土器の文様組成に関する一考察
 笠井洋祐  信濃川上流域における縄文時代草創期遺跡研究の視点
 長澤有史  縄文時代草創期前半期における石斧について―東海地方を中心に―
 小栗康寛  矢柄研磨器の実像を探る
 高橋秀光  東海地方における縄文時代草創期の石鏃試論
 萩原博文  ヤンガー・ドリヤス期の北部九州
 久村貞男  長崎県北松浦半島の洞穴遺跡
 柳田裕三  西北九州の洞穴遺跡からみた土器出現期の諸相
 長田友也  東海地方の磨製石斧について
 山本直人  縄文時代の三引低湿地遺跡の変遷とその要因
 羽生淳子  横浜市港北区高田貝塚とその周辺の縄文時代前期遺跡
        ―緊急発掘資料と表面採集資料からわかること―
 伊藤正人  貫通眼をもつ土偶―顔表現の始まり―
 川添和暁  切目石錘・有溝石錘について―三河山間部の事例から―
 村田文夫  縄文竪穴住まい内の祭祀と墓制に関する一考察
        ―甲信地域の中期後半期の資料から―
 山本暉久  柄鏡形(敷石)住居成立過程をめぐって
 新美倫子  北海道北部における縄文時代遺跡の分布について
 増山禎之  貝輪と叩石―縄文時代晩期渥美半島貝塚群を例として―
 永井宏幸  伊勢湾周辺における縄文文化終末期の土器
 村上 昇  小栗鉄次郎による嵩山蛇穴洞窟遺跡発掘調査記録について(1)

第III部 ヨハネス・マリンガーの研究
 領塚正浩  ヨハネス・マーリンガー神父と考古学研究所
 川合 剛  ヨハネス・マリンガー神父の先史学と日本

第IV部 白石浩之先生略歴・教育・研究業績についての紹介
 藤澤良祐  白石浩之先生の略歴・研究業績について

あとがき
謝 辞
英題一覧
執筆者一覧

 本書は白石浩之先生の愛知学院大学ご退職を契機に発刊された論集である。しかし、タイトルが示すとおり、白石先生のご専門の時代が設定され、しかも、ご自身も執筆し編集も行われている。異色で個性的な記念論集であるが、旧石器・縄文時代の研究者には魅力的な1冊となっている。白石先生の交友関係を考えるならば、様々な時代を専攻する多くの研究者がいるので、制約を設けないととんでもない厚さの論集になり、編集はとても大変な作業となっていただろう。これも焦点を絞った理由と想定されるが、一方で他の分野の方々からの執筆希望を断らざるを得なかった白石先生のご心労が察せられる。
 本論集の執筆者の多くは、白石先生が学生であった頃から交友のある方々であるので、各論文では学史がうまく整理され的確な課題が設定されている。ページ数が制限されているのであろうが、経験を積んだ方々ならではのことであろう。本書は「旧石器時代文化の研究」「縄文時代文化の研究」「ヨハネス・マリンガーの研究」の3部で構成され、論文課題には、学史、研究理論・方法、編年・系統、行動・生態などの分野がある。また、個別資料を用いた論考、実験研究などもみられる。そして、当然のことながら旧石器時代から縄文時代への移行の実態を追究する論文が多い。なお、白石先生の業績は藤澤良祐氏によりまとめられている。
 学史の研究では、領塚正浩氏、川合剛氏のヨハネス・マリンガーの研究と日本考古学への貢献についての検討があげられる。それぞれの焦点が異なるので、マリンガーの全体像を知る上では有益である。その中でも、モヴィウスの成果と比較しながら東南アジアの下部旧石器時代資料との類似点を群馬県権現山遺跡資料に見いだし、礫器文化が日本にも存在する可能性を指摘したことが注目される。このこともあって日本の研究者は前期旧石器時代遺跡の探索を行うが、その結果の一つとして齊藤基生氏が再検討した岐阜県西坂遺跡がある。一方で、マリンガーの成果を含め、群馬県岩宿遺跡発見以降の旧石器時代研究の体制、理論・方法が織笠明子氏によって簡潔にまとめられている。ただし、織笠氏の考えの全体を知るには既述の論文を読む必要がある。また、小田静夫氏による武蔵野台地における旧石器時代研究の成果、木崎康弘氏による九州における旧石器時代研究の進展と白石先生の関わり、の検討があげられる。小田氏は1970年ころからの南関東の研究が日本旧石器時代研究に果たした役割を簡潔に考察している。縄文時代では、山本暉久氏の柄鏡形住居、村上昇氏の愛知県嵩山蛇穴洞窟調査記録の検討がある。山本氏は40年以上もこの住居の研究を進めているが、様々な批判に答えるかたちで論を進めている。論争史の研究では、岡本東三氏による、最新の発掘資料を駆使した「本ノ木論争」の論考がある。学史を踏まえ、遺物出土層の形成過程、尖頭器と土器の検討を行い、本ノ木式土器の成立過程を復元した。岡本氏が指摘するように、この論争にはそれぞれ論者の構想する時代の枠組みが背景にあるのであろう。時代区分の二重の物差しが存在することである。
 理論との関連でいえば、荒井幹夫氏の論考は考古学・歴史学の基盤、現代人の認識方法を哲学的に追究したもので、特異な存在である。このよう思考形態が人類進化上あるいは考古学上いつ発生したのかを問うことも今後の課題となるのであろう。
 旧石器時代の編年・系統研究では、小菅将夫氏の打越型ナイフ形石器、鈴木次郎氏による南関東の後半期石刃石器群の構造、伊藤健氏の樋状剥離をもつ尖頭器、佐藤雅一氏の新潟県大刈野遺跡の石器群、白石先生の石槍石器群があげられる。縄文時代では、先述した岡本氏の本ノ木式土器、舘山友加里氏の青森県における草創期石器群、戸田哲也氏による神奈川県の隆起線文土器群、笠井洋祐氏の新潟県信濃川上流域の草創期遺跡群、高橋秀光氏の東海地方草創期の石鏃、萩原博文氏の北部九州における草創期・早期の遺物、柳田裕三氏の西北九州における土器出現期の細石刃石器群、長田友也氏の東海地方の磨製石斧、伊藤正人氏の貫通眼をもつ土偶、永井宏幸氏の伊勢湾周辺における晩期土器、があげられる。多くの論考はかなりコンパクトに記述されているが、引用文献はしっかりと付されている。
 行動・生態学研究には、石器材料の検討がある。石材の原産地確認によって、その獲得・加工・運搬・利用形態、それらに関わる経済社会関係の追究が可能となる。旧石器時代資料の論考では、出居博氏の後期旧石器前半の栃木県上林遺跡石器材料の構成と入手形態、西井幸雄氏の台形様石器にみられる石材利用の違いと時期差、川道寛氏の九州淀姫系黒曜石の利用形態、杉原敏之氏の九州における尖頭器石器群の地域的展開、荒井信貴氏の愛知県矢作川流域のチャート製石器、平井義敏氏・神取龍生氏による「白色風化石材」の原産地と石材の特徴、藤山龍造氏の北海道白滝遺跡群の非黒曜石資料、の検討があげられる。平井氏らの成果は縄文・弥生時代資料にも適用される。また、生態学的視点から、旧石器時代では比田井民子氏が石皿・磨石の役割を論じ、縄文時代では、久村貞男氏の長崎県北松浦半島における草創期〜前期の洞窟遺跡、山本直人氏の石川県三引遺跡、羽生純子氏の横浜市高田遺跡、新美倫子氏の北海道浜頓別町の遺跡群、で遺跡利用形態が論じられている。編年研究あるいは後述の論文でも生態学的視点からの考察はある。このような研究は今後も追究されるべきである。
 個別遺物の研究として、長澤有史氏の東海地方草創期の石斧、小栗康寛氏の矢柄研磨器、川添和暁氏の縄文時代の切目石錘・有溝石錘の検討があげられ、基礎研究の大切さがうかがわれる。また、実験研究では、御堂島正氏による熱を受けた黒曜岩の光沢消失の実験、加藤悠雅氏による旧石器時代岐阜県大林遺跡の石器にみられる微細な損傷の実験があげられ、それらの要因の追究がなされた。また、増山禎之氏の東海地方縄文晩期の貝輪をモデルとした製作実験がある。御堂島氏は被熱黒曜岩認定基準の一つを明示したことになり、その適用範囲は広い。実験研究は資料解釈の正当性を高めるものであり、今後も継続した研究が必要である。
 以上の項目には括れなかったが、木村英明氏のシベリア北部ヤナ遺跡群の旧石器時代資料、村田文夫氏の縄文時代の住居内出土倒置時土器と埋葬・再埋葬との関係、に関する論文がある。寒冷地に適応したヤナ人の残した資料は日本の研究者にとって垂涎の資料である。
 時代別にみると、旧石器・縄文時代移行期に関する多様な観点からの論文が多く、しかも広範な地域の資料が扱われていることは明かである。しかし、時代を画する基準が二重となっているので、研究者によって使用する語が異なる。岡本氏のように新たな時代概念を議論する必要もあろう。また、土器の起源もさらに遡る可能性がある。東欧では約2.5万年前の土偶、中国では約2万年前の土器が発見されているので、日本列島ではそれらに近い年代の土器が出土する可能性はあるし、複数の系統が存在するかもしれない。一般的に遺物や遺構の編年を行う場合、生物進化の相同・相似、祖先形質・派生形質を重視するし、また言語系統学のように多様な起源を前提とすることもあろう。そして導き出された仮説としての「型式」とその連続は、空間分析、層位学(広域テフラ)の適用、絶対年代測定という手法を用いて確認される。さらに、それらの系統をもとにした時空間上の差異は行動・生態学的に説明されることになる。すべての資料が良好な条件を備えているわけではないが、各研究者は様々な方法を用いてそれぞれの課題に果敢に挑戦している。移行期研究の到達点を理解する上で本書は良好である。
 以上のように、理論・方法、系統・編年、行動等の課題が設定され、それが旧石器時代から縄文時代への移行に焦点があてられている。それぞれの課題、移行期の実態に興味を持つ方々には本書は大いに資するものと考えられる。

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