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第49回 (2018,09,04)
東北日本の旧石器文化を語る会 編 『東北日本の旧石器時代』

評者: 佐藤宏之 (東京大学文学部考古学研究室・教授)

書名 東北日本の旧石器時代
著者 東北日本の旧石器文化を語る会 編
発行元 六一書房
出版日 2018/05
価格 9,180

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 序 「東北日本の旧石器文化を語る会」30年の歴史
                  …… 柳田俊雄・渋谷孝雄・山田晃弘・藤原妃敏
第1章 旧石器人をとりまく自然
 1.日本列島の更新世人類化石…… 奈良貴史
 2.旧石器時代から縄文時代草創期における東北日本の植生史研究と課題…… 吉川昌伸
 3.旧石器時代の動物考古学をめぐる諸問題…… 澤田純明
第2章 編年の基準と方法
 1.東北日本における後期旧石器時代編年 ―課題と展望―…… 沢田 敦
 2.長者久保遺跡と大平山元I遺跡における放射性炭素年代の研究史的意義…… 川口 潤
 3.岩手県における旧石器時代から縄文時代草創期に相当する石器群の変遷と分布
                                 …… 村木 敬
 4.福島県浜通り地方の旧石器時代研究の現状と課題
   ―大谷上ノ原遺跡と荻原遺跡の石器群を中心に―…… 門脇秀典
 5.新潟県樽口遺跡出土石器群の再検討…… 立木宏明・吉井雅勇・沢田 敦
第3章 石器のかたちの理解
 1.旧石器研究における「かたち」の理解
   ―タイポロジーから「状況」の理解へ―…… 鈴木 隆
 2.東北日本の旧石器製作技術研究の展望と課題
   ―型式学的技術研究から石器技術学研究へ―…… 大場正善
 3.有舌尖頭器の起源 ―ピリカ型の提唱―…… 長井謙治
 4.尻労安部洞窟出土台形石器の所属年代についての再検討…… 渡辺丈彦
 5.米ヶ森型ナイフ形石器再考
   ―いわゆる杉久保型と東山型のはざまで―…… 石川恵美子
 6.頁岩製石刃の製作遺跡と消費遺跡に関する形態学的研究
   ―山形県域の遺跡間比較から―…… 熊谷亮介
第4章 前期と後期の境界
 1.前期旧石器研究と東北日本…… 小野章太郎
 2.上屋地遺跡B地点出土石器群の石器技術学的再検討…… 会田容弘
 3. 東北日本における旧石器時代前期から後期へ移行する石器群…… 柳田俊雄
 4.米ヶ森型台形石器と台形剥片 ―秋田市下堤G遺跡の分析から―…… 神田和彦
 5.東北地方における後期旧石器時代前半期石器群の再考
   ―福島県笹山原No.16遺跡出土の基部加工石器を中心に―…… 洪 惠媛
第5章 資源としての石材
 1.珪質頁岩原産地における石器を含む砂礫層…… 秦 昭繁
 2.山形県内から出土した旧石器時代から縄文時代草創期の
   黒曜石製石器の産地同定とその意義…… 渋谷孝雄・佐々木繁喜
 3.中部地方北部における後期旧石器時代の石材利用
   ―黒曜石の動態に関する検討―…… 加藤 学
 4.福井洞穴出土安山岩製石器の技術的検討
   ―第3次発掘調査における層位的出土事例をもとに―…… 梅川隆寛
第6章 痕跡学とその応用
 1.旧石器の機能研究の成果と展望 ―東北日本の事例を中心に―…… 鹿又喜隆
 2.九州地方の後期旧石器時代使用痕研究…… 寒川朋枝
 3.旧白滝3遺跡の使用痕分析
   ―広郷型細石刃核石器群のめのう製石器を対象として―…… 鈴木宏行
 4.東北日本における遺跡形成過程研究…… 傳田惠隆
第7章 概念・理論・視点の再考
 1.北アジアにおける細石刃技術の出現過程をめぐって…… 高倉 純
 2.湧別技法による細石刃の形態と製作技術研究
   ―函館市石川1遺跡出土資料の再評価―…… 青木要祐
 3.東北地方の「北方系細石刃石器群」をめぐって…… 佐久間光平
 4.「渡来石器」の時間的位置づけとその評価…… 橋本勝雄
 5.ミドルレンジセオリー再論 ―ビンフォードの遺産と東北旧石器―…… 阿子島香

はじめに
 本書の編者である「東北日本の旧石器文化を語る会」(以後「語る会」)の誕生は、前世紀末の日本の考古学シーンを抜きに語ることはできない。1970年代は、いまだ日本経済の高度成長期にあり、列島各地で大規模な開発が行われていた。首都圏で始まった開発に伴う大規模な発掘調査(行政調査)の波は、80年代になると地方にも押し寄せ、新たな旧石器時代資料の発見が、短期間に陸続と報告されるようになった。急速な資料の蓄積とその研究成果を公開し議論・共有するために、列島各地で地域を単位とした、それも旧石器時代に焦点を絞った研究会や交流会が組織されるようになったのである。1987年に第1回の大会を開催した「語る会」もその一つである。
 以降「語る会」は、「世話人」を出している東北各県と北海道および新潟県の持ち回りで毎年開催され、2016年に第30回を迎えたのを機に企画され刊行されたのが本書である。評者は第1回から参加し、半数以上の会に出席して、調査報告や講演等を行ってきた。個人的な感想で恐縮だが、「語る会」の歩みは評者の研究者としてのキャリアとほぼ重複するので、感慨深いものがある。

本書の概要
 本書は、序と第1章〜第7章に区分された33本の論考から構成されているため、その全部に具体的に触れるのは困難である。

序 「東北日本の旧石器を語る会」30年の歴史
第1章 旧石器人をとりまく自然
第2章 編年の基準と方法
第3章 石器のかたちの理解
第4章 前期と後期の境界
第5章 資源としての石材
第6章 痕跡学とその応用
第7章 概念・理論・視点の再考

 執筆者の顔ぶれも、各県から選出されて活躍してきた「世話人」や”常連”だけではなく、若手も含み、多士済済である。論及されているテーマも広範で、自然環境・資源、編年、年代論、型式学・形態学、技術論、石器群構造、遺跡連鎖、「前期旧石器」、石材環境、機能論、実験使用痕分析、遺跡形成論、理論・方法論等と、今日の旧石器研究の主要なテーマがほとんど網羅されている。議論の方式も様々で、おおむねレヴューと新たな分析報告の両者が拮抗している。ただしわずかな例外を除いては、東北日本がその研究対象の範囲となっていることが、当然のことながら数少ない共通の特徴であろう。ということなので、ここでは章立てのみの掲出とし、各章の内容は略させていただいた。改めてHPにて確認されたい。
 
東北日本の旧石器研究
 今日の先史時代の研究は、1980年代頃を境として、いわゆる「文化史の復元」から「自然環境・資源への人類の応答の研究」に視座が大きくシフトした。氷期の日本列島に暮らした旧石器人が、所与の自然や資源環境に対して、具体的にどのように技術的・文化的・社会的に対処したのかを明らかにする研究である。そのためには、人類そのものの研究だけではなく、古気候をはじめとする自然環境および動植物相や石材といった資源構造を具体的に明らかにすることが必要となる。この30年の間に、こうした環境科学研究の成果とのすり合わせは、AMS法等の高精度年代測定法の開発と利用により、大きく進展した(第1章)。
 一方で、編年は依然として東北地方旧石器研究の最大の課題の一つである。日本旧石器編年研究は、南関東の厚いローム堆積を利用した地質編年からスタートした学史を背景にもつため、そうした条件の乏しい東北地方では、石器群構造の比較や「進化」を主な方法としてきた。近年ようやく蓄積されだした14C年代測定値の援用はまだまだ不十分であるので、統一的な編年パラダイムは構築されていないと言わざるをえない(第2章)。
 しかしながら、新たなアプローチである「石器技術学」が、東北から発信されたことも事実である。ペレグラン等フランス先史学の分析法を「石器技術学」と名付け、我が国へ盛んに紹介した故山中一郎・京大教授の影響を強く受けた研究グループによる提案と実践は、日本旧石器研究に刺激を与えつつある。この研究法の重要性は十分首肯できるが、その一方で方法の取得と実行に汎用性を欠くため、一般化の問題が常に付きまとうことになろう。これは実験使用痕にも共通する(第3章1,2)。
 「語る会」は、2000年11月に発覚した旧石器捏造事件のお膝元として、その強い影響を受けた。「語る会」は事件発覚直後から直ちに対応に着手し、14〜17回大会(2000年12月〜2003年12月)をその検証に当てた。その努力と姿勢には、あらためて敬意を表したい。この事件の反動として、いわゆる「前期旧石器」を鬼門として避けて通る傾向の強い現状に対して、積極的な発言を続けていることを評価したい(第4章1-3)。
 東北地方は、旧石器時代列島の主要石材の一つである頁岩の主要産地である。石材研究は、現在日本旧石器研究の主要テーマの一つであり活発に議論されているので、東北旧石器研究に期待される分野の一つとなっている(第5章1)。東北日本における黒曜石の主要産地は北海道にあるが、旧石器時代末期になると北海道産黒曜石が東北に南下することが明らかにされたことも、近年の重要な成果の一つである(同2)。
 「痕跡学」を代表する実験使用痕分析は、東北大学の研究チームの研究が嚆矢の一つとなっている(第6章1-3)。ファブリック解析等を利用した遺跡形成過程の研究は、地考古学研究Geoarchaeologyの主要な方法の一つであり、さらなる研究の進展を楽しみにしたい(同4)。
 これら各章に対して第7章の議論は、ひとつひとつが独立しており、総括的な論評が困難である。機会を得て、改めて論評を試みたい。

 以上雑駁ではあるが、簡単に論評を加えた。ここ30年間の東北日本の研究を総覧するには、本書はもっとも簡便かつ有効である。特に当該分野に関心のある方にとって必携の書であることは、論を待たない。ぜひ一読を薦めたい。
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