HOME書評リレー > 書評: カナダ 北西海岸域の先住民

第51回 (2018,11,12)
関 俊彦 著 『カナダ 北西海岸域の先住民 』

評者: 設楽博己 (東京大学大学院人文社会系研究科教授)

書名 カナダ 北西海岸域の先住民
著者 関 俊彦 著
発行元 六一書房
出版日 2018/05
価格 2,376

カナダ北西海岸先住民の文化と社会 ―関俊彦『カナダ 北西海岸域の先住民』を読んで―

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プロローグ
第一章 先住民の暮らし
 一 はじめに
 二 風土と人々
   気候/人々の生活域/社会
 三 先史時代の人工遺物
 四 一八世紀以降の木工具
 五 一九世紀以降の生活域
   北部域/中央部域/南部域
 六 おわりに
第二章 トリンギット族の生活
 一 はじめに
 二 トリンギット族について
 三 自然と暮らし
   一年間のスケジュール/村の姿/建物
 四 狩猟・漁撈・調理
   陸上での狩猟/海洋での捕獲/漁撈/調理
 五 おわりに
第三章 トリンギット族の社会
 一 はじめに
 二 カヌーと交易
   カヌー/交易
 三 信仰とシャーマン
   信仰/シャーマンと魔術
 四 ポトラッチ
 五 紋 章
 六 人生儀礼
   誕生/幼少期/思春期/結婚/死
 七 おわりに
第四章 ツィムシアン族の世界
 一 はじめに
 二 ヨーロッパ人との出会い
 三 生活領域と自然環境
   生活領域/自然環境
 四 年間の生活スタイル
 五 建物と編み物
   建物/編み物
 六 社会組織
   系譜/親族関係/階級/紋章/首長の役目
 七 ライフサイクル
 八 儀 式
   祭宴とポトラッチ/信 仰
 九 神 話
 一〇 他部族との関係
 一一 おわりに
エピローグ
索 引

 先史学の分野では、1960年代にアンリ・デュボアとリチャード・リーが主催してシカゴで行われた採集狩猟民の性格をめぐるシンポジウム“マン・ザ・ハンター”が画期的であったとされる。そこでは遊動民に対して小さな集団によって頻繁に移動するという古典的な定義が提示された一方で、マーシャル・サーリンズによって“affluent foragers”すなわち裕福な採集狩猟民の存在に目が向けられた。それまで貧しくみすぼらしいイメージが植え付けられていた採集狩猟民のステレオタイプは排されることになる、一つの“発見”であった。
 民族学の分野における同じようなブレイクスルーは、アメリカ北西海岸の前近代社会の“発見”であろう。非農耕社会でありながら文明社会同様の社会階層をもつような複雑な社会を形成していたことは、驚きをもって迎えられた。彼らはいわゆる複雑採集狩猟民の一つであるが、彼らの文化と社会に対する記録や洞察、すなわち北西海岸の民族誌の構築は18世紀から19世紀初頭のジェームズ・クック船長による航海やルイスとクラークらによる探検を経て、19世紀後半の民族学者フランツ・ボアズの業績に負うところが大きい。それらの民族誌と北西海岸の先史時代遺跡から得られたデータを突き合わせると、彼らの文化と社会における複雑採集狩猟民的な性格が紀元前の先史時代にさかのぼることは明らかである。また、似たような複雑採集狩猟民として考古学上著名なのは、たとえば中東の中石器時代のナトゥーフ文化や縄文文化である。
 本書は、カナダ北西海岸を代表する先住民のハイダ族とトリンギット族の文化と社会をわかりやすくまとめたものである。著者の関俊彦氏は、ジェームズ・ディーツのInvitation to archaeologyを『考古学への招待』(雄山閣)として翻訳したり、『カリフォルニア先住民の文化』、『北米・平原先住民のライフスタイル』(いずれも六一書房)を出版し、欧米の考古学、とくに本書のテーマであるアメリカ北西海岸先住民の研究と紹介に尽力してきた斯界の第一人者である。
 世界の中の多くの古代文明は、近代にいたって写真や文書が残されるはるか以前に滅びて、その実態が霧の中に包まれたものが多いが、アメリカ北西海岸のネイティブたちは、17世紀にヨーロッパ人に“発見”されて以来、文明化する以前の姿を絵画や写真に残されたきわめて稀有な民族である。写真や文献を利することの困難な先史学にとって、北西海岸の先史考古学は歴史学とすんなりと接続することの可能な事例である。先史考古学的現象の意味や背景を理解するうえで多くの参照枠を提供しているが、日本考古学においても霧のベールに包まれた先史時代の社会を推測する手掛かりとなる。
 本書では、北西海岸という固有の生態系に応じた自然への取り組みの知恵と複雑な社会がつぶさに描かれている。ニシンやオヒョウ、アザラシなどの漁撈やクマやシロイワヤギの狩猟など、特有の技術を駆使した生業活動、外婚制にもとづく二つの半族からなる母系クランなど彼らの社会組織、トーテムポールの彫刻などで世界的に知られた芸術、耳朶伸張を伴う耳飾りの装着、儀礼を特徴づける客人への大量の財の贈与であるポトラッチとその際の紋章の重要性などなど、私たちのはるか東にありながらも同じくらいの緯度にあるがゆえか、いにしえの縄文文化のいろいろな事象とついつい比較してみたくなる。採集狩猟社会のなかで、なぜこのような高度で複雑な社会が生まれたのか、考古学の専門家はもとより一般の方の知的好奇心をもくすぐらずにはおかない。

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