HOME書評リレー > 書評: 再考「弥生時代」  農耕・海・集落

第61回 (2019,11,26)
浜田晋介  中山誠二  杉山浩平 著 『再考「弥生時代」  農耕・海・集落』

評者: 武末純一 (福岡大学教授)

書名 再考「弥生時代」  農耕・海・集落
著者 浜田晋介  中山誠二  杉山浩平 著
発行元 雄山閣
出版日 2019/05
価格 6,380

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第I部 総論
 第1章 弥生文化の概念(浜田晋介・中山誠二・杉山浩平)
 第2章 問題点と本書の役割(浜田晋介・中山誠二・杉山浩平)
第II部 研究史
 第1章 縄文・弥生の農耕に関わる研究史(中山誠二)
 コラム1 雑穀の見分け方(中山誠二)
 第2章 弥生時代研究と海(杉山浩平)
 コラム2 弥生時代のブタ(杉山浩平)
第3章 弥生集落の研究史(浜田晋介)
 コラム3 戦争の時代(浜田晋介)
第III部 各論
 第1章 栽培植物からみた弥生型農耕の系譜(中山誠二)
 第2章 「海」からみる東日本の弥生文化(杉山浩平)
 第3章 弥生集落論の再構築(浜田晋介)
第IV部 座談会
 第1章 はじめに
 第2章 研究史の討論
 第3章 各論の討論
 第4章 まとめ
 コラム4 「食用植物の栄養価」(中山誠二)

 本書は、浜田晋介・中山誠二・杉山浩平という脂ののった東日本の弥生時代(以下、弥生・縄文と略す)研究者が、現在の弥生研究は〈弥生文化は西から〉パラダイムのもとにあると捉え、それに対して3名のこれまでの研究を総括して、東日本(特に関東)地域の資料分析で得られた地域性を前面に押し出して、パラダイム転換を試みた意欲作である。その目次は以下の通りである。

   第I部 総論
    第1章 弥生文化の概念
    第2章 問題点と本書の役割
   第II部 研究史
    第1章 縄文・弥生の農耕に関わる研究史    中山誠二
     コラム1 雑穀の見分け方          中山誠二
    第2章 弥生時代研究と海           杉山浩平
     コラム2 弥生時代のブタ          杉山浩平
    第3章 弥生集落の研究史           浜田晋介
     コラム3 戦争の時代            浜田晋介
   第III部 各論
    第1章 栽培植物からみた弥生型農耕の系譜   中山誠二
    第2章 「海」からみる東日本の弥生文化    杉山浩平
    第3章 弥生集落論の再構築          浜田晋介
   第IV部 座談会
    第1章 はじめに
    第2章 研究史の討論
    第3章 各論の討論
    第4章 まとめ
     コラム4 食用植物の栄養価         中山誠二
   
 克服すべき対象は〈水田単作史観〉や〈拠点型・周辺型集落〉などが明言され、さらにその根底を支える唯物史観(発展段階論)にも及ぶようである。そのために、農耕を中山誠二、海を杉山浩平、集落を浜田晋介が担当し、各人が個別の研究史をたどってから論を展開して、最後に座談会(鼎談)でそれぞれの論点を浮き彫りにしつつ議論する。こうした構成ではそれぞれのテーマが研究史・各論・座談会で輪切りのため、ここではテーマごとに通観する。
 中山誠二は研究史で縄文農耕論と弥生時代稲作農耕論を戦前から現在まで概観し、最後にAMS法による穀物資料の年代分析やレプリカ法の普及で縄文晩期前半以前のイネ・アワ・キビの存在を疑問視する見方が優勢になり、「雑穀類がいわゆる弥生前期の土器の拡散より早く定着する状況も浮き彫りになってきた」(31頁)とする。筆者も縄文農耕論では同様な講義をしており、異論はほとんどないが、〈水田単作史観〉の形成には戦後すぐに発掘された登呂の水田が果たした役割も大きい。
 各論の「栽培植物からみた弥生型農耕の系譜」ではこれまでのレプリカ法による研究を総括して、縄文ではササゲ属アズキ亜属、ダイズ属、シソ属などを栽培し、その在り方は園耕、園芸の言葉が最もふさわしいという。そして、朝鮮半島の新石器時代から青銅器時代の栽培植物研究の成果も踏まえて、日本列島でのイネ・アワ・キビのイネ科穀物の出現は、弥生早期よりも一段階古い突帯文I期(縄文晩期後葉)に絞り込まれて来ているとする。この結論も安定的で、2019年11月に開催された日本考古学協会2019年度岡山大会での那須浩郎の発表も同様であった。鼎談では、縄文の生業形態は今まで狩猟・漁撈・採集の三点のバランスで考えていたところに植物栽培という要素も一つ加わったとし、農耕を主要な生業と見ない点に評者も意を強くした。
 杉山浩平は研究史で「唐古遺跡や登呂遺跡の調査と研究を先導していった大学関係の研究者たちが「コメの文化」を重視していったのに対して、それぞれの地域の資料をもとにした、いわば在野の研究者が漁撈文化を高く評価しているのは、非常に対照的な姿である」(43頁)と指摘する。各論では南関東地方への稲作の伝播は2回の海人集団の渡海で始まるとともに、三浦半島の海人集団を例に、海人集団はそれぞれ独立性が高く、「遠距離の交通と交易という専門的・特殊技能」を備えて、土地に縛られる網漁系の沿岸漁民よりも自由に行き来できたのは、「その活動でしか入手できない文物(海産物や舶来文物など)を持つ機会が、原産地と本貫地、そして時によっては巡回の土地のなかにあり、それらを各集団と交換しながら動いているからである」(132頁)と結論し、弥生中期後半〜後期前半の海人集団巡回モデル図(図17)を提示した。評者の海村ネットワーク論とも響き合い、鼎談での中山の「海洋性の商人的な意味合いも非常に強いのかな」との指摘も踏まえれば、図17の巡回も閉じた円環ではなく外部に開いて、西日本の楽浪交易や三韓交易への参入も想定できよう。
 本書の作成を牽引した浜田は研究史で、弥生集落の群集化・大規模化の理由を水稲農業の発展による人口増加に求める集落形成論をステレオタイプと断じ、関東の台地上の大規模集落論を支える谷水田存在そのものにも疑問を呈して移動・移住論で理解する必要性を説き、コラムでは東日本の〈弥生戦争論〉へ否定的な意見を述べる。そして各論で、竪穴住居は土屋根と確証して(鼎談では土屋根では柱は抜けない旨の発言がある)、神奈川県神崎遺跡の分析からは単位住居群の存在を導出し、移住・移動はその単位ごとであるとの前提のもと、神奈川県砂田台遺跡の3号溝→30号竪穴住居→25号住居の前後関係でのそれぞれの遺構の埋没状況や出土土器から、3号溝・30号竪穴住居はともに一定の埋没期間を経ないと構築できないとする。特に30号住居は壁際の断面三角状堆積土の上に火災で形成された土層が位置するから上屋を残しての移動を裏付けると指摘し、集落外に移住した蓋然性を力説して集住化を否定する。論証課程はスリリングで、いまだに竪穴住居跡の断面図に土層を図示しない一部の報告書への強い警鐘となる。
 さらに、浜田は近年急速に明らかになった関東の低地集落に対しては、神奈川県河原口坊中遺跡を丹念に分析して、限定された土器型式内での住居の検出数・集中を根拠とした集住や大規模集落の解釈を否定する。そして、度重なる台風シーズンの水害で住居だけでなく水田や畠まで埋没する事態では、低地集落の人々は居住できず食料事情も厳しくなるから、同時存在の台地上の集落へ避難し畠作物の援助を受けて復興するような互恵システムが存在したと想定する。鼎談ではこの互恵システムは「血縁的な関係性だとか、地縁的な関係性といったものに基づいて、農業共同体を構成するモデルとはイメージが違う」(213頁)とまで述べる。
 このように本書は、これまでの弥生研究の革新を目指し、説得力ある筆致で展開した挑発的な論著と言える。もちろん西日本弥生研究者である評者にとって、違和感はいくつかある。
 まず、「農耕」以外の各論の標的が、東日本の研究成果か西日本の研究成果か当初とまどった点である。これは、研究史で西日本も含めた日本列島全体の研究成果が総括され、〈水田単作史観〉や〈拠点型・周辺型集落〉などは西日本の研究の枠組みでもあるのに、各論の「海」と「集落」は関東地域の資料で論述され、鼎談も東日本の議論が大半を占める点に起因する。鼎談の「はじめに」を再読してはじめて、西日本の枠組みを意識せずに東日本の弥生文化を正面から見据えて研究する(東日本の資料で弥生文化像を描く)のが目的と判明するが、それでは、東は東、西は西と棲み分ければ本書の目的は達成されるのか?この点で例えば、筆者も竪穴住居は土屋根が多いと考えるが、西日本では同心円状に竪穴住居が拡張された例もあり、土屋根での建て替えは本当に不可能かとも思う。
 なによりも現在、〈水田単作史観〉にとらわれた弥生研究者がどれほどいるのか?関連して、農耕と農業の語の使い分けの基準も気になる。これは単なる言葉の遊びではない。評者は、農耕が主たる生業になった弥生以降は農業を用い、生業の一部でしかない縄文では農耕を用いる。弥生農業が縄文的な生業や栽培技術と連続するとしても、溝を掘らず泉で水を汲む縄文人と、溝を盛んに掘って大地にうがった井戸から水を汲み上げる弥生人とでは、自然に対する思想や社会が全く異なる。「あとがき」(目次にはない)で中山は、「イネは日本の歴史の中では単なる食料としてというより、政治的な支配に利用された作物としての側面を持っていた」(230頁)と書く。評者も弥生社会をコメ本位制と捉える。こう考えてくると、現行の弥生パラダイムに対する著者らの挑戦は、西日本の資料や研究成果、特に首長制社会論と果敢に切り結んでこそ完結すると愚考するが、これは望蜀の言であろう。次作に期待したい。
 本書を一読したのち、こうした違和感も含めて、評者は無性に著者たちと直接いろいろ議論したくなった。本書の一番の効用がここにある。
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