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第17回 (2014,09,22)
高宮広土 新里貴之 編 『琉球列島先史・原史時代における環境と文化の変遷に関する実証的研究』

評者: 木下 尚子 (熊本大学文学部 教授)

書名 琉球列島先史・原史時代における環境と文化の変遷に関する実証的研究 研究論文集
著者 高宮広土 新里貴之 編
発行元 六一書房
出版日 2014/03
価格 9,720

限られた面積の島々に、これほど長期間ヒトが生活しえたのはなぜなのか

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<第1集>
 新里貴之 琉球列島の先史時代名称と時期区分 
第1部 土器文化
第1章 土器出現期をめぐる問題(前1期)
 山崎真治 旧石器時代から貝塚時代へ 起源論研究の現状とその行方
 伊藤 圭 ヤブチ式前後の土器相について
第2章 九州縄文時代中期土器群と在地土器群(前2期)
 横尾昌樹 貝塚時代前2期の土器編年について―室川下層式土器の研究を主体として
 相美伊久雄 琉球列島の九州縄文時代中期土器について
第3章 奄美・沖縄共通の土器群:いわゆる「奄美系」土器群をめぐって(前3期〜前4期前半)
 堂込秀人 面縄前庭様式の研究
 新里亮人 前4期における奄美諸島の土器様相
第4章 奄美・沖縄の土器群分立(前4期後半・前5期前半)
 崎原恒寿 点刻線文系土器群について 伊波式、荻堂式、大山式土器についての若干の考察
 瀬戸哲也 室川式・室川上層式および関連土器群の再検討
第5章 在地土器群と九州弥生・古墳時代土器文化の関わり(前5期後半〜後1期)
 森田太樹 奄美諸島における前5期の土器について
 玉榮飛道 沖縄諸島の肥厚口縁土器、無文尖底系土器
 新里貴之  北野堪重郎 奄美諸島・貝塚時代後1期の土器文化
 安座間充 貝塚時代後1期・沖縄諸島の土器動態
第6章 先史土器文化の終焉過程(後2期:くびれ平底系)
 鼎丈太郎 奄美群島における兼久式土器について その時代背景についての若干の考察
 小橋川剛 先史土器文化の終焉過程 沖縄諸島の様相
第7章 窯業技術の導入と原史土器文化との関係(グスク時代)
 宮城弘樹 貿易陶磁出現期の琉球列島における土器文化
 具志堅亮 グスク土器の変遷
 新里亮人 先史時代からグスク時代へ その考古学上の諸画期と歴史的展開
第8章 先史から原史土器の年代的問題
 名島弥生 放射性炭素年代から見た琉球列島における考古学的時期区分の現状と課題
第2部 石器・貝製品・骨製品文化
 大堀皓平 琉球列島の石器・石器石材
 山野ケン陽次郎 先史琉球列島における貝製品の変化と画期 貝製装飾品を中心に
 久貝弥嗣 貝塚時代骨製品の出土状況
第3部 総 括
 新里貴之  伊藤慎二 宮城弘樹  新里亮人 琉球先史・原史文化の考古学的画期
<第2集>
第1部 環境と文化の変遷
 山田和芳  瀬戸浩二  五反田克也 藤木利之  原口 強  米延仁志
内湾堆積物に記録された過去約2,000年間の沖縄諸島環境史
 菅 浩伸 琉球列島のサンゴ礁形成過程
 藤田祐樹 更新世の琉球列島における動物とヒトのかかわり
 高橋遼平 先史時代琉球列島へのイノシシ・ブタの導入 古DNA解析を中心に
 黒住耐二 貝類遺体からみた沖縄諸島の環境変化と文化変化
 樋泉岳二 脊椎動物遺体からみた琉球列島の環境変化と文化変化
 菅原広史 沖縄諸島の遺跡出土魚骨の分類群組成にみる「特異的」傾向 
 上田圭一 植物遺体からみた琉球列島の環境変化 花粉分析・植物珪酸体分析を中心に
 田里一寿 貝塚時代におけるオキナワウラジロガシ果実の利用について
 高宮広土  千田 寛之 琉球列島先史・原史時代における植物食利用 奄美・沖縄諸島を中心に
 片桐千亜紀 琉球列島における先史時代の崖葬墓
第?部 周辺地域との比較
 石堂和博 大隅諸島の先史文化にみられる生業の特徴と変遷
 澄田直敏 喜界島の様相
 マーク・ハドソン 先島諸島における先史時代のヒトと生態史 宮古島長墓遺跡を中心に
 山田浩世 近世琉球・奄美における災害の頻発と気候変動問題 1830年代を中心に
 (Column) 中山清美 奄美のシマ(集落)の自然観
 印東道子 ミクロネシアの古環境研究と人間居住
 野嶋洋子 バンクス諸島の「山」と「海」―島嶼メラネシア・ヴァヌアツにおける先史社会と環境
 小野林太郎 ウォーラシア海域からみた琉球列島における先史人類の移住と海洋適応
 (Column) Scott M_p. Fitzpatrick Human-Environmental Interrelations in the Prehistory of the Caribbean Islands
 (Column) Torben Rick  Overview of Recent Archaeological and Historical Ecological Research on California Islands USA
 青山和夫 メソアメリカの自然環境と文化変化
 坂井正人 アンデス文明の盛衰と環境変化
第2部 総 括
 高宮広土 琉球列島の先史・原史文化の特質

 本書の編者・著者である高宮広土氏は、琉球列島をフィールドとする先史人類学者である。氏は地球上の島々に展開した各地の歴史を比較して、以下の問題を投げかけている。

 琉球列島は人類史上稀な歴史を辿った島嶼である。そこでは更新世にヒトが渡来し、完新世に狩猟採集民が生活を営んでいたが9〜11世紀に農耕を受け入れて階級化が進み、15世紀には王国を成立させ、その間島の自然は大きく破壊されることはなかった。限られた面積の島々に、これほど長期間ヒトが生活しえたのはなぜなのか。人々はどのようにして島の環境を維持し得たのか?

 この問題を解くために、高宮氏はのべ68名の考古学者・人類学者・環境史学者・歴史学者等を集め、「島嶼環境とヒト」の関係を問うテーマで5年にわたる共同研究を実施して、琉球列島の先史・原史文化を徹底的に解析した。本書はその成果報告書である(注1)。
 報告書は環境編と、文化編の計2冊から成る。前者では、先史時代から中・近世までを対象に、琉球列島の気候、海洋環境、哺乳動物・貝類・魚類捕獲実態からみた環境変化、太平洋ほか他地域の島々(ミクロネシア、マイクロネシア、ウォーレシア、カリフォルニアチャネル諸島、カリブ海、ユカタン半島、アンデス高地)の環境と文化が議論され、問題解決にむけた様々な素材と論点が提示されている。
 主なものを紹介すると、イノシシが2万年前以後の登場であることを指摘した藤田祐樹論文、完新世のイノシシにヒトによる持ち込みの可能性のあることを示した高橋遼平論文、貝塚の動物骨からグスク時代への生業の変化を論じた樋泉岳二論文、貝類の分析から7000年間の環境変化に大きな変化のないことを指摘した黒住耐二論文、オキナワウラジロガシの利用実態を論じた力作の田里一寿論文、南島世界の北端に位置する種子島の両面性を示した石堂和博論文、農耕開始期における主要な栽培作物の地域差を指摘した高宮・千田寛之論文、近世琉球・奄美の災害と気候変動の関係を丹念に追った山田宏世論文などで、いずれも新鮮かつ魅力的である。
 文化編では、遺物を通して各期の文化が復元されている。新里貴之氏を中心に、伊藤慎二氏、新里亮人氏、宮城弘樹氏が分担して全体の舵を取っている。4名がみな土器研究を専らにすることもあって、各期にわたる土器の分析が報告書の主柱をなす。
 本書においてもっとも評価したいのは、巻末に掲載された新たな編年案である。この編年はトカラ・奄美・沖縄を通した広域編年で、これまで地域の横の文化的つながりと時間的関係のみえにくかった関係がよく整理されている。本案は、1950年代の多和田編年、70年代の沖縄考古学会編年、70〜90年代の高宮廣衞編年、90年代の伊藤慎二編年の蓄積をふまえ、かつ琉球列島の土器文化の自律的展開に重心をおいたもので、時代名称を貝塚時代とし、九州編年との時期的関係を細かく示したところに特徴がある。貝塚時代前期における個別の型式名を、型式間の共通性に注目して普遍的な名称に置き換えて広域編年に適応させ、貝塚時代後期の4期分類を同様に2期分類にまとめた点は土器編年の大綱化ともいえ、伊藤編年の優れた面が生かされている。絶対年代の対応では、これまでの放射性炭素年代を丹念に整理した名島弥生氏による研究が大きく寄与している。奄美地域を南北に分け地域的な差を明示した点、仲原式期を新旧に分けて貝塚時代前期と後期をつなぐ位置においた点など、共同研究の成果が反映され、これまでの編年研究がうまく止揚されている。個人的には縄文文化との関係を客観的にみようとする姿勢に好感をもつ。今後細部における検討は継続するであろうが、枠組が変わることはないだろう。広域編年をくみ上げた関係者の努力に敬意を表し、今後より使い勝手のよい編年に磨き上げられてゆくことを期待したい。
 この編年枠に沿う形で、個別の土器研究が展開する。主なものを紹介すると、琉球列島の土器で最古型式の南島爪形文土器以前の土器について最新の資料をまとめ、その起源を九州に求めた山崎真治論文、南島爪形文土器を琉球列島の自生であろうと指摘した伊藤圭論文、室川下層式土器を分析し面縄前庭への変化を説明した横尾昌樹論文、これまで不明部分の多かった縄文中期併行期の九州との関係を丹念に追った力作の相美伊久雄論文、奄美の籠目文系土器の先後関係を手際よく整理した新里亮人論文、室川上層式土器を沖縄本島中部の地域的変異であることを指摘した瀬戸哲也論文、仲原式土器が沖縄中南部に多いことを指摘した玉栄飛道論文、弥生時代の貝交易の動態を綿密な土器の分析で見事に描き出した力作の安座間論文、兼久式土器を2期区分してその文化的意味を明らかにした鼎丈太郎論文、農耕開始期の沖縄の状況の復元に挑んだ宮城弘樹論文、グスク土器の編年からグスク登場の段階的変化を見事に導いた具志堅亮論文、貝製品を網羅し貝文化の変遷を総括した山野ケン陽次郎論文、先史時代を通して継続性が強い墓が営まれたことを指摘した片桐論文(注2)など、意欲作がならぶ。
 上記以外のものを含め、これらは軽々と読み進むことがまったくできない。それぞれにおいて、研究史が丹念に整理され、集成された資料をもとに手堅い論が進められているからである。執筆者の多くは、30~40歳代の研究者(多くは地方公共団体で埋蔵文化財行政に従事)で、実物資料を自在に観察できる環境に恵まれていることもあって、議論は実証的である。討論に引き込まれた私は、しばしば彼らのデータを写し取り自ら分析を試みながら読まざるをえなかった。中にはやや生硬なものもあるが、それを措いても読書の疲労が心地よいのは、執筆者たちの真摯な研究姿勢がまっすぐ伝わってくるからであろう。
 全体を通して印象深いのは、遅くとも貝塚時代早期(縄文時代前期)以降、琉球列島に継続的に九州の土器が影響を及ぼしていることが明確に示された点である。西北九州から九州西岸、薩摩半島経由のものもあれば、東九州・大隅半島系譜のものもあり、すでに弥生時代以降の貝交易ルートが存在していたことを学んだ。こうした土器の南下は、なぜおこるのだろう。縄文中期土器を論じた相美氏はこの時期における九州の土器の影響を気候の寒冷化に求めるが、各期の南下を同様の環境変化で説明できるとは限らない。文化の絶え間ない土器南下の事実は、琉球列島の文化全体を理解する上で、留意すべき点だろう。旧石器人の行方、土器の起源、農耕の始まり、王国形成前夜の問題など、凝縮された2冊からたくさんのことを考えさせられ、学ばせてもらった。
 さて、本書は「島嶼環境とヒト」という視点のもとに、長期間にわたってヒトが島で暮らしかつその環境を維持し得たのはなぜか、の問いに向かった研究報告であるが、答えはどこにあるのだろう。全体を読めばわかるはずというのが編者の意図かもしれないが、必ずしも明示されてはいない。これについては、例えば討論会内の発言記録などで示してほしかったというのが、読者としての正直な感想である。投げられた問いは、琉球列島の文化を理解するための、とても大事な内容だからである。高宮氏は、この共同研究の親プロジェクトがまとめた別の書物の中で、本研究を根拠にして、環境破壊をせずに長続きする「島嶼文明」(注3)を提示している。この言葉は、問いの答えの先に登場する概念だろう。人類学者からの問いに追い抜かれないよう、考古学者はさらに気合いをいれねばなるまい。
 本研究は、科研費研究全体として若手の研究者育成に力が入れられていることが高く評価されており、そのことは本書にもよく現れている。南島考古学のエネルギッシュな今を知るために不可欠な書物として、琉球列島の人類史に興味をもつ方々にお勧めしたい一冊である。


(1) 文科省科研費新学術領域『環太平洋の環境文明史』(平成21-25年度)の1領域を担うものである。プロジェクト全体は、環太平洋の非西洋型諸文明であるマヤ文明をはじめとするメソアメリカ文明、南米のアンデス文明、および琉球列島の先史文化の盛衰に関する通時的比較研究を行うことを通して、環太平洋の環境文明史の創成を目指している。高宮氏は琉球列島を担当し、本研究にかかわって沖縄本島南部のフェンサ城貝塚を発掘調査している。
(2) 編集上、環境編に収録されている。
(3) 青山和夫・米延仁志・坂井正人・高宮広土2014『マヤ・アンデス・琉球−環境考古学で読み解く「敗者の文明」』、238頁。

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