<内容>
兵庫県内で最も均整のとれた古墳のひとつである雲部車塚古墳(篠山市)。古墳時代中期(5世紀中頃)に築造された大型の前方後円境で、墳丘の周囲に后形の堀(周濠)を巡らし、左右には小さな古墳 (陪ちょう)が見られます。境丘の長さは約l40mで、県内では五色塚古墳(神戸市)に次ぐランクになります。
明治29(1896)年、地元の人たちにより発掘され、石棺(長持形石精)と、それを囲む石の部屋(竪穴式石槨)が見つかり、中から大量の鉄製武器(甲冑、刀剣類、矛、矢尻など)が出土しました。全国的に見ても、大型前方後円墳の埋葬施設と副葬品の内容が明らかになった例は少なく、多くのナゾが残されているのですが、この雲部車塚古墳は、幸いにも発掘時のようすが絵図にして残されています。出土品の一部については京都大学で保管されており、大型古墳の副葬品の内容をうかがい知ることができる貴重な資料となっています。
当館の展示で雲部車塚古墳の内部を復元するにあたり、出土品などに関する調査を京都大学と共に実施しました。このたび、その成果を「研究紀要」にまとめることになりました。遺物の発見から113年が過ぎ、出土品の具体的な内容が明らかになりました。全国でも例を見ない矛や育もあり、大型古墳研究に欠かせない資料です。
(博物館広報誌より引用　学芸課 中村 弘さん)
<目次>
第1章　研究の目的と経過
第2章　調査・研究略史
第3章　1896年出土遺物の研究
第4章　考察
　　　1　車塚考証
　　　2　石槨・石棺と出土状況の復元
　　　3　雲部車塚古墳出土の剣・刀・ホコについて
　　　4　大型定角式鉄鏃の変遷と雲部車塚古墳の鉄鏃組成
　　　5　三角板鋲留異形衝角付冑をめぐるいくつかの問題
　　　6　雲部車塚古墳副葬甲冑の構成と特色
　　　7　雲部車塚古墳の埴輪と須恵器-窖窯焼成導入期の諸問題-
　　　8　雲部車塚古墳出土遺物の保管と複製品製作について
　　　9　雲部車塚古墳出土三角板鋲留異形衝角付冑の復元製作
　　 10　伝雲部車塚古墳出土小札鋲留衝角付冑の製作過程
　　 11　「雲部車塚古墳出土」馬具の検討
第5章　総括
　　　1　遺物研究の成果
　　 2 地域史の中の雲部車塚古墳-まとめと展望-