<執筆者>
古川登・御嶽貞義・大賀克彦・ 岩本崇・河端しのぶ・松谷久史・鍵谷純子・堀大介・壱岐一哉・的矢俊昭・森本幹彦・中川あや・田中謙二・釘谷紀
<目次>
凡例　1調査経過　2報告　3研究編　4英文抄訳　写真図版
<内容>
キーワード:破砕鏡・古墳の出現・古墳における焚き火・東四国系土器　
　報告は、発掘調査の失敗も記述して失敗という知識を共有する努力を行う。風巻神山古墳群は、前期の前方後円墳1基、円墳1基、方墳2基の調査報告、特筆する遺物は、3号墳の東四国系土器、4号墳の破砕された中国製神人龍虎画像鏡。明寺山廃寺(平安時代前期寺院)本堂跡の調査は、本堂の規模の確定、排水溝を伴う道を検出している。
　研究編は、以下の論考8本を所収。古川登「北陸地方における古墳の出現」、大賀克彦「紀元三世紀のシナリオ」、岩本崇「風巻神山4号墳出土鏡をめぐる諸問題」、松谷久史「北陸地方の墳墓における火焚き行為について」、森本幹彦「風巻神山3号墳出土土器の位置付けについて」、堀大介「風巻神山4号墳出土土器の検討」、鍵谷純子「風巻神山4号墳出土青銅鏡の保存処理」、河端しのぶ「明寺山廃寺SH9501前面の柱穴群について」。
　大賀は小羽山古墳群で「古墳時代の時期区分」古墳の編年を行ったから、「紀元三世紀のシナリオ」で古墳の出現の意味を説く。破砕鏡を副葬する風巻神山4号墳が大賀のいう前�鬼�の古墳であればこそ、この論考は意味を持つ。しかし、それでも「紀元三世紀のシナリオ」という論題は、少しキザではある。
　古川の北陸地方における古墳の出現は、いくつかの基礎的かつ、それゆえに重要な指摘がある。墳丘から出土する土器をなにゆえに伴うと認識することができるのか、伴うという認識が恣意的なものと言わざるをえない例が少なくない。表採資料を調査資料と同等に議論する例があり、表採の破片化した鏡を破砕鏡と論じるむきを註で指摘している。古墳の出現という議論を行う前に、同じ土俵にあげられる資料を吟味することが大切だと言っているのだが、前近代的な古墳研究者には理解されないだろう。
　岩本の風巻神山4号墳出土鏡をめぐる諸問題は、4号墳から出土した中国製神人龍虎画像鏡を明確に位置付ける。松谷は3号墳墓壙前面の焚き火跡を北陸地方の墳丘墓・古墳から検出された焚き火跡を集成分類して位置づける。森本は3号墳の墓壙から出土した壷形土器が東四国系土器であることを指摘し、被葬者が東四国と関係のあった人物であることを指摘している。堀は4号墳から出土した土器の編年的位置付けを行い、4号墳の造営時期を3世紀第2四半期の後半と指摘している。
　河端しのぶの明寺山廃寺SH9501前面の柱穴群については、明寺山廃寺本堂のSH9501前面の柱穴が、いわゆる柱穴ではなく、足場の痕跡であることを指摘し、SH9501が礎石建物で奈良県海竜王寺西金堂に近似する建物であったことを考察している。