<内容>
永久「見直し論」運動
　1980年代の土井義夫らによる小規模集落のあり方からいわゆる大規模環状集落とされる大集落の実態を時間的に累積した姿と捉える考え方は、林謙作によって「見直し論」と呼ばれました。見直し論は、石井寛による集団移動論をあわせるかたちで拡大していき、羽生淳子など多彩な考え方を含めて、水野集落論・和島集落論などモデル論的な縄文社会の理解に疑義を呈してきました。現時点では、山本暉久、鈴木保彦らの大規模環状集落論に谷口康浩の二項対立構造の集落モデルを含めた伝統的な縄文社会のテーゼに対抗する野党として、時間軸をきちんとみていくことで集落の実態を見定めようとする「横切り派」として、通常、新地平グループである我々がその代表としてあげられることが多いと思います。二元論的に学界の議論を単純化することは避けるべきであり、大規模環状集落を積極的に評価する立場にも、集落の実態をみていくとより細分されることが明らかとする立場にも、様々な考え方があることを正しく理解するべきです。なによりも「見直し論」というレッテルは、そのレッテルを負うものとして誇るべきものとの意識はあるのですが、むしろ当たり前ではないかとの感覚を持ってしまうのです。
　考古学を含む人文科学としては、事象を説明していく上で「仮説」を組み立て、その検証を行っていく手順をとります。とすれば、すべからく「見直し」という作業は、体制派にせよ反体制派にせよ等しく負うべき権利であり責務であるはずです。大規模集落論の立場としても、環状集落が文化的規範として普遍的に律されているのか、どこまで計画性があるのか、社会構造との連動をどこまで読み取るか、たえず見直しが必要とされるはずです。また、「横切り派」として集落の実態を追う立場も、季節性やテリトリーを含めた定住性・移動性の実態や集落・居住施設の時間、土器や施設の廃棄行為、祭祀や墓制との関わりについて、たえず考えの再検討が求められます。もちろん日々更新される調査成果の蓄積や過去の調査成果の再検討によって。また学史との対話によって。365日、見直しをおこなっていくということになるのだと、ここに自省を込めつつ確認を求めたいと思います。(セツルメント研究会)
<推薦文>
縄文集落研究グループ15年の軌跡
1970年代・80年代の考古学界において集落構造論、廃棄パターン論など縄文集落をめぐる議論はわれわれの憧れであった。しかし、魅力的ではあったものの解釈モデルを提示したに過ぎなかった縄文集落論は、調査事例が急増する中で硬直化していった。これに対し、90年代半ばに全点ドットや接合資料を武器に、徹底したデータ主義と帰納的方法で従来の縄文集落論に反旗を翻したのが縄文集落研究グループである。本書は同グループによる『縄文集落研究の新地平の15年』と題するシンポジウムの記録集であり、ここでは自分史を含めた同グループ15年の歩みを再確認しながら、遺物出土状態の記録化をめぐる葛藤や複雑で理解し難いと批判されてきた彼らがめざす縄文集落研究の姿が熱く語られている。
尚美学園大学教授　櫻井準也
<目次>
小林謙一　序　縄文集落研究の新地平の15年を巡って
小林・中山・黒尾　調査史年表
1部　報告「縄文集落研究の新地平の15年」
小林謙一　縄文時代住居調査学史
中山真治　武蔵野台地における縄文中期集落調査の事例から
黒尾和久　多摩における縄文中期集落調査の展望
纐纈　茂　調査例個別報告その1　東海地方からの視点
遠部　慎　調査例個別報告その2　犬島貝塚の調査から
櫛原功一　調査例個別報告その3　山梨県の調査例
大網信良　調査例個別報告その4　福島県井出上ノ原遺跡の調査実践
武川　樹　調査例個別報告その5　北関東から-栃木県の事例-
村本周三　調査例個別報告その6　北海道での調査実践
2部　討論の記録
縄文集落研究の新地平の15年
3部　補論と展望
宇佐美哲也　縄文集落研究の15年と新地平グループの指針
山本典幸　「縄文集落研究の新地平の15年」公開研究会参加記 いわゆる新地平グループのこだわり
小林謙一　戦後集落調査の系譜
五十嵐彰　型式組列原理再考
黒尾和久　結 縄文集落研究の足場