<執筆者>
古川　登・御嶽貞義・森本幹彦・豊島直博・古屋紀之・藤田勝也・森口幸咲
・村上雅紀
<目次>
1遺跡の環境　2片山鳥越墳墓群の調査　3方山真光寺跡塔址の調査
4研究編　写真図版
<内容>
キーワード:吉備的弥生墳丘墓・鉄剣・中世五重塔・相輪・石塔の型式編年　
　『片山鳥越墳墓群・方山真光寺跡塔址』は、清水町という合併によって無くなった行政の発行した最後の発掘調査報告書である。まず、目次には執筆者の文責を記すだけでなく、実測図の作成・製図の分担をも記しており、近年一部の発掘調査報告書にみられる、調査担当者名も記さなければ、その文責も記さないという、無責任きわまりない報告書とは一線を画している。考古学が歴史科学であるという立場に立つなら、見習うべき姿勢というより、当たり前の姿勢ではある。
　片山鳥越墳墓群は、庄内式並行期の1〜6号墓の6基の墳丘墓の調査成果を報告。5号墓は辺長16.5×14.5mの方形墓で、埋葬施設は墳頂部に2基が存在。第1埋葬の木棺は、岡山県総社市立坂墳丘墓の木槨のように礫で囲む。
　報告では、埋葬施設の調査状況を、表土除去後、埋葬施設陥没坑完堀後、墓壙検出状況、棺内完堀状況と状況ごとに図示して、解説を加える。第1埋葬の墓壙上には楯築墳丘墓のように礫を集積し、その上に祭式土器を配置。祭式土器の出土状況は、古屋紀之が破片の接合と出土位置を確認し、報告中で詳細な検討を加える。
　片山鳥越墳墓群に関する論考は、豊島直博「弥生時代における鉄剣の把の細分と編年」・森本幹彦「片山鳥越5号墓第1埋葬施設の位置付け」・御嶽貞義「越前地方の墳丘墓における埋葬配列に関する一考察」を収録する。
方山真光寺跡塔址は、天正二(1574)年に一向一揆によって焼かれた中世寺院の五重塔址で、鉄製相輪・厨子金具・泥仏・ガラス製舎利・水晶製舎利容器片等が出土している。発掘調査の結果、木造五重塔が火災で焼失したのちに石造多層塔で再建したことが判明している。方山真光寺跡塔址に関する論考は、森口幸咲・藤田勝也「方山真光寺木造五重塔の復元」、古川登・村上雅紀「越前地方における石造多層塔の研究」がある。
　論考は、いずれも調査成果に基づいた論考である。森本の片山鳥越5号墓第1埋葬施設の位置付けは、5号墓第1埋葬が吉備地方の強い影響を受けた埋葬施設であることを論じる。古川・村上の越前地方における石造多層塔の研究は、石塔の梵字を装飾とみなして分類し、梵字の字画の変化から型式編年するという前例のない石塔編年を提示した論文である。
　なお、4研究編の論考は本文174頁中87頁と半数を占め、報告書に考察は不要であるという文化庁の指導と調和しないが、本来、あるべきカタチの報告書として座右に置きたい。