<内容>※本紙”開催にあたって”より抜粋
　時期による異同はあるが、古墳時代前・中期における古墳分布の北縁地域は蒲原平野・庄内平野・山形盆地・大崎平野・北上盆地である。これら古墳築造周縁域には、東北北部などの続縄文文化圏で多く認められる遺構・遺物が存在する時期・地域がある。同様に、続縄文文化圏にも古墳文化圏で多く認められる遺構・遺物が存在する時期・地域がある。大きくみて、東北は異なる文化圏に属する集団の接触域と言える。ただし、接触域はモザイク状に点在し、時期や地域によってその実相も異なった。古墳時代の東北は複雑な社会状況にあつたのである。本大会を、その実相を読み解く一助としたい。
　かつて藤本 強氏は、上記した北の古墳築造周縁域を「北のボカシの地域」と呼んだ。近年は異論も提起されているが、古墳築造周縁域に関する研究は単なる地域史研究に留まらない。古墳時代の日本列島史を考えるうえでも、重要な位置を占める。
　古墳築造周縁域の特徴の一つは、古墳が総じて少なく、その築造が安定的に継続しないことである。ここが重要である。古墳が少ないことは、その築造背景に迫ることを比較的容易にさせる。地域社会がどのような状況になったとき、古墳が築造されたのか。古墳築造の意味に迫る可能性をも秘めた重要な研究フィールドなのである。
　その築造背景の可能性の一つとして、本大会では続縄文文化圏に属する集団との接触を俎上にあげる。古墳年代前・中期を対象に古墳や集落の動向、特徴的な遺構・遺物の分布を整理し、主に古墳文化研究の立場から検討する。もちろん、関東や北陸など古墳文化圏の集団との関係にも目を向け、総合的に古墳時代前・中期の地域社会を復元する。そのうえで、南の古墳築造周縁域の様相と比較し、北の古墳築造周縁域の特性や地域社会の変化、地域間関係を明らかにする。資料集成に基づく堅実な討議を通して、東日本の地域間関係に関する一つのケーススタディとしたい。
<目次>
藤沢 敦　古墳文化と続縄文文化の相互関係　
滝沢規朗　続縄文土器と土師器の共伴事例からみた併行関係　越後の事例を中心に　
水澤幸一　縁辺の古墳と在地社会―城の山古墳を中心にして　
高橋誠明　古墳築造周縁域の地域社会の動向　宮城県北部大崎地方
を中心に　
日高　慎　常陸の前期大型古墳と北方の地域社会　
橋本達也　九州南部における古墳築造の動態と南北周縁域の比較　
沢田　敦　南赤坂遺跡出土石器の使用痕分析