<内容>　※本書内容要約より　文章内の数字は目次内の数字と思われます
　本書は、奈良県高市郡高取町大字佐田にある束明神古墳の発掘調査報告及び石槨の復元実験、そして分析・研究及び図版からなる終末期古墳の研究書である。発掘報告では束明神古墳が、八角形の墳形を持つ対角長約36mの古墳で、内部は50cm大の切石を積んだ横口式石槨であった。盗掘されていたが、内部に棺台と漆塗りの木棺を有していたことを報告している。
　復元実験は、石槨がかなり破壊されていたのでこれを復元することにした、その結果石室の基本設計が判明、古代石工技術についても知ることができた。以上の総合的な成果として七世紀代の終末期後半の古墳の歴史的意義が少しでも解明できたと信じる。
　分析・研究では、理科学的研究として、1は歯牙の分析から被葬者は青年期後半から壮年期にわたると推定した。2は棺飾り金具に付着していた有機質は上質の白絹であり、またこの絹と絹の間に真綿の存在を確認した。3では石室内の棺台及び木棺の全てがサワラの木であることを証明した。4では石室内の漆喰の分析と鉛白の検出により『日本書紀』の記述にも関わるかもしれないとの示唆をしている。5では石槨の石材が二上山の凝灰岩であることを示し、また同時代の古墳の多くがこの石を使っていることを分析している。6は石槨の構造についてマイクロコンピューターを用いて、構造解析をおこなった結果報告である。
　社会科学的研究としては、1は石積み技術からその構造の特性について述べている。2は束明神と同じ終末期後半の古墳の新事例の報告である。3は束明神古墳を含む八角形墳の復元を試みた。4は終末期後半の古墳のいずれもが凝灰岩を使用していること。特定の地域に集中していることなどから天武天皇を中心とする陵園の制度があったのではないかとの仮説を示した。5は終末期古墳のいずれもが似た立地を示すことから風水思想の影響の基に墓作りがなされたと考えた。6は終末期古墳の被葬者は最も考えやすいとして束明神古墳の場合は文献・伝承・考古学的事実などから車壁皇子が被葬者であると論じた。