<内容>
　2003年開催のシンポジウムでは南関東の弥生土器研究の多様性が認識され、同シンポジウムをもと刊行した『考古学リーダー 5　南関東の弥生土器』で提起された多くの課題はいまだに多くの読者を刺激している。
　今回は刺激的な多様性を継承し研究の一層の進展を図るため、学史に埋没している未明の課題と対峙するとともに、地域研究による新たな展開を企図した。本書によって多様な研究の進展と課題や方向性の存在を実感して頂きたいと思う。

<推薦文>
弥生後期論争は解決したか
東京都弥生町遺跡で発見された壷が、弥生土器、弥生時代の名のもとになったことはよく知られている。以来、100年以上の研究の歴史があるが、意外と明確でないのがこの南関東弥生時代後期である。登呂遺跡を発掘したことでも知られる明治大学の杉原荘介教授の編年案に対して、大学闘争のころに疑問が示されて、今日にいたる。南関東は画一的ではなく、東京湾岸の久ヶ原・弥生町式土器のまわりには個性豊かな土器文化がある。いわば弥生版、群雄割拠の時代・地域でもあったのだ。
　本書は、地域研究を進める研究者が、新しい弥生後期像を模索する果敢な研究討論の記録である。弥生後期が群雄割拠を越えて古墳時代に突入したように、スリリングな南関東弥生後期論争は何かを産出すに違いない。
　　　　　　　　　　　　　　　　西相模考古学研究会会長　神奈川県考古学会会長　岡本孝之

<目次>
はじめに………石川日出志　　i
例　言
I　各地域の後期土器―討論へ向けて―
総　論………小倉淳一　　3
旧武蔵国中・南部における弥生後期土器………小出輝雄　　7
久ヶ原式と山田橋式………大村　直　 40
朝光寺原式土器の編年と共伴土器………浜田晋介　 59
北武蔵中央部の後期土器………柿沼幹夫　 71
下総台地の南関東系土器………高花宏行　 92
東京湾西岸〜相模川流域の後期弥生式土器の検討………安藤広道　114
引用図版出典………　129
II　討論の記録
「混沌から秩序」に向けて………　141
III　新たな枠組構築への試み
シンポジウム「南関東の弥生後期土器を考える」への期待と成果………小倉淳一　171
いくつかの訂正と補足・反論………小出輝雄　182
南関東弥生後期土器雑感………浜田晋介　188
補足・意見―和光市午王山遺跡における岩鼻式土器―………柿沼幹夫　192
印旛沼周辺地域における中期末葉から後期初頭の様相………高花宏行　203
久ヶ原式成立期の東京湾西岸・武蔵野台地の様相………比田井克仁　210
シンポジウム「南関東の弥生後期土器を考える」雑感………菊池健一　218
臼井南式土器の変遷について………小玉秀成　221
「久ヶ原2式」への接近………鈴木正博　229
久ヶ原式土器研究の前に………齋藤瑞穂　240
南関東・東海東部地域の弥生後期土器の地域性………篠原和大　246
―とくに菊川式土器の東京湾北東岸への移動について―
引用参考文献………　255
シンポジウム開催の目的とその後………小出輝雄　　264
あとがき―私はまだここがわからない―………石川日出志　269
執筆者・関係者一覧