書評コーナー

第20回 2015.02.03

サンフランシスコ湾岸域の先住民
発行元: 六一書房 2014/08 刊行

評者:穴澤 和光 (福島県考古学会顧問)

サンフランシスコ湾岸域の先住民

著書:関 俊彦 著

発行元: 六一書房

出版日:2014/08

価格:¥2,420(税込)

目次

プロローグ
第一章 先住民の食料と領域
 一 はじめに
 二 先住民の食べ物
    植物 魚類 貝・海の哺乳動物 陸の動物 その他
 三 先住民の領域
    北西部域 北東部域 北部沿岸域 サクラメント・バレー域 
    サンホアキン・バレー域 南部沿岸域 南海岸域
 四 おわりに
第二章 海岸ミーウォク族
 一 はじめに
 二 人々をとりまく生態系
 三 サンフランシスコ地域の歴史
 四 先住民の営み
    食べ物 住居 衣服 容器 捕獲具
 五 先住民の社会
    生活領域 族長と女性リーダー 病気と治療 成人への一歩 踊り 儀式
 六 おわりに
第三章 ミーウォク族の食生活
 一 はじめに
 二 生活域と人口
    生活域 人口
 三 食べ物と捕獲具
    植物 動物 鳥類 魚類
 四 食べ物の調達
    植物採集 狩猟 罠 捕獲具
 五 食べ物の貯蔵・調理・容器
    貯蔵 調理 容器
 六 おわりに
第四章 ミーウォク族と植物
 一 はじめに
 二 薬用植物
 三 シャーマンと儀式
    シャーマン 儀式
 四 住居と籠
    住居 籠
 五 おわりに
第五章 先住民コスタノアン族
 一 はじめに
 二 モンテレー湾周辺の歴史
 三 生活域と社会
    言語 生活域 社会
 四 衣・食・住
    衣服 食べ物と捕獲 住まい
 五 信仰と儀礼
    信仰 儀式
 六 おわりに
第六章 先住民の世界観
 一 はじめに
 二 先住民の生活域と生業
    海岸地帯の民 川辺の漁撈民 湖岸の漁撈民・狩猟民・採集民
    渓谷と平原の採集民 丘陵地帯の狩猟民と採集民 砂漠の民
 三 先住民の世界観
    川辺の漁撈民 湖岸の漁撈民・狩猟民・採集民 丘陵地帯の狩猟民と採集民
    考古資料からみた先史人の世界観
 四 おわりに
エピローグ

先住アメリカ人の民族誌

 北米大陸西海岸のカリフォルニア州、サンフランシスコ湾沿岸にヨーロッパ、アジア系の移民が押し掛ける前に居住していた先住アメリカ人の民族誌である。
 この地域の先住民の文化は日本の研究者に縄文文化との類似性という点から関心を持たれている。農耕(または栽培)経済以前の採集漁労民であったこと。その生業経済はドングリを主体とするナッツ類とサケなどの漁獲に依存していたことであり、狩猟は補助的な役割に過ぎなかった。彼らの多くは竪穴住居にすみ、建物には住居と作業場の区別があった。主な用具は石器であり、土器は使用せず、その代わりに編み物の籠を容器に使用し、食物を煮沸する場合は水漏れをしないように、塗って中に入れた水の中に焼石を投げ入れて使用した。衣服は簡単で、冬以外は半裸に近く、男子は冬季に身体に泥をぬってしのいだ。
 社会は部族制で、生活習慣を異にする多くの部族の支配域に分かれ、相互のテリトリーを尊重してあまり交流のない場合がおおかった。宗教呪術の分野ではシャーマンが社会的に重要な役割をはたしていた。
 彼らは平和的な民であり、北米東部や平原の先住民のように、部族同盟をつくって団結し、白人から武器を手に入れて抵抗したりすることはなかったようだ。そのため、17世紀以降、スペインやメキシコの修道院を中心とする支配や、19世紀のゴールドラッシュでおしかけた白人開拓民に圧迫され、土地を奪われ、疫病や(本書には書いていないが)意図的な虐殺などで、その民も文化も消滅してしまった。
本書はその消滅してしまった先住民の文化を、生き残ったわずかの先住民からの聞き取りと、文献資料から、辛うじて記録にと留めたものを紹介したもので、民族誌の書物であり、考古資料はあまり使用されていない。
 北米西海岸や北西海岸の先住民は、環境と生業経済の類似から縄文文化の類似例としてよく引き合いに出されるが、縄文文化との最大の相異点は土器を欠いていることである。日本の先史考古学は遺跡から豊富に出土する土器の編年が研究の大きな比重を占めるが、北米先史考古学では南西部などを除き、土器のない文化が日本よりもずっと後まで続き、土器の発明は単に便利な煮沸容器の発明で、「文化の大きな画期」とは見做されていないような印象を受ける。
 いまひとつ、本書から得た印象では、サンフランシスコ湾周辺の先住民の文化は、ドングリとサケに大きく依存するとはいえ、「豊かな採集民」の文化として知られる北西沿岸地域の先住民(たとえばカナダのクワキトール族など)に比べて社会組織も文化の内容も未発達な段階にあったと思われる。たとえ、縄文文化との比較が試みられるにせよ、その対象となるのは縄文早期―前期前半段階で、中期以降は定住集落、集団墓地、シンボリックな構築物の発達、精巧な土器や漆器、木製品の出現、呪術製品の存在、あるていどの栽培植物、社会階層化の可能性、広範囲交易の存在など、本書に描かれたサンフランシスコ湾岸先住民よりもはるかに複雑化した文化内容を示しているからである。

サンフランシスコ湾岸域の先住民

著書:関 俊彦 著

発行元: 六一書房

出版日:2014/08

価格:¥2,420(税込)

目次

プロローグ
第一章 先住民の食料と領域
 一 はじめに
 二 先住民の食べ物
    植物 魚類 貝・海の哺乳動物 陸の動物 その他
 三 先住民の領域
    北西部域 北東部域 北部沿岸域 サクラメント・バレー域 
    サンホアキン・バレー域 南部沿岸域 南海岸域
 四 おわりに
第二章 海岸ミーウォク族
 一 はじめに
 二 人々をとりまく生態系
 三 サンフランシスコ地域の歴史
 四 先住民の営み
    食べ物 住居 衣服 容器 捕獲具
 五 先住民の社会
    生活領域 族長と女性リーダー 病気と治療 成人への一歩 踊り 儀式
 六 おわりに
第三章 ミーウォク族の食生活
 一 はじめに
 二 生活域と人口
    生活域 人口
 三 食べ物と捕獲具
    植物 動物 鳥類 魚類
 四 食べ物の調達
    植物採集 狩猟 罠 捕獲具
 五 食べ物の貯蔵・調理・容器
    貯蔵 調理 容器
 六 おわりに
第四章 ミーウォク族と植物
 一 はじめに
 二 薬用植物
 三 シャーマンと儀式
    シャーマン 儀式
 四 住居と籠
    住居 籠
 五 おわりに
第五章 先住民コスタノアン族
 一 はじめに
 二 モンテレー湾周辺の歴史
 三 生活域と社会
    言語 生活域 社会
 四 衣・食・住
    衣服 食べ物と捕獲 住まい
 五 信仰と儀礼
    信仰 儀式
 六 おわりに
第六章 先住民の世界観
 一 はじめに
 二 先住民の生活域と生業
    海岸地帯の民 川辺の漁撈民 湖岸の漁撈民・狩猟民・採集民
    渓谷と平原の採集民 丘陵地帯の狩猟民と採集民 砂漠の民
 三 先住民の世界観
    川辺の漁撈民 湖岸の漁撈民・狩猟民・採集民 丘陵地帯の狩猟民と採集民
    考古資料からみた先史人の世界観
 四 おわりに
エピローグ