書評コーナー

第1回 2021.09.10

「動物考古学」なんて嫌い

筆者:山崎 健 (奈良文化財研究所)

「動物考古学」なんて嫌い

 あくまで研究分野ではなく、言葉の話だ。単純に「考古学」でいいではないか。遺跡から出土した動物の骨と、土器や石器、瓦に違いはない。すべて発掘調査で土の中から出てきたモノたちだ。なのに、土器考古学も、石器考古学も、瓦考古学も聞いたことがない。なぜ、わざわざ「動物」と冠する必要があるのだろうか。

 

 ──と、ずっと考えていたし、今でも思っている。
 でも、現状では理想論のようだ。動物の骨は、人工遺物ではなく自然遺物で、骨の専門家が扱うべきもの。発掘現場での当事者意識が希薄になりやすい。
 しかし、何よりも現場が大切なのだ。貝塚という特殊な遺跡でなくとも、骨は残っている可能性がある(『農耕開始期の動物考古学』第7章「資料蓄積の模索」)。炉やカマドの埋土をフルイにかければ、焼けた骨が見つかるかもしれない。現場で取り上げられなければ、骨は存在しなかったことになってしまう。
 これは現場だけの責任ではない。動物考古学が学問分野として認知されるようになったのは、多くの先学たちの地道な尽力と優れた研究の積み重ねによるものである。ただし、すでに「動物考古学」という学問的枠組みが用意されていた世代の私たちは、細分化された専門分野に安住したままでいいのだろうか。
 現場を変えるためには、狭い専門領域に閉じこもることなく、考古学や歴史学、動物学、生物学の議論へ積極的に参加する姿勢が必要なのだと考える。細分化から統合化へ。本書は現場や意識を変えるためのささやかな試みである。多方面からのご意見やご批判をたまわりたい。

 

 ──といった著者の前のめりな思いとは関係なく、一番反響があるのは、第9章の「社会貢献の模索」であったりする。動物考古学への興味に関わらず、いや全くなくても、鹿のイラストの本『農耕開始期の動物考古学』を気軽にめくっていただけたら、うれしいです。

 

 

 

追記:この文章を推敲している時、表紙デザインを担当していただいた金田あおいさんが急逝されたという知らせが届きました。
 本書は特殊な専門書籍と思われてしまうため、学生でも気軽に手に取ってもらえるような表紙にしたいという思いがありました。そのため、遺物写真ではなく、本書で扱ったニホンジカ、ハマグリ、マイワシ、ベンケイガイ(打ち上げ貝)のシンプルなイラストの表紙にしたいと考えていました。
 金田さんには書籍内容や表紙イメージ、ラフ案を直接お伝えして、デザインを作成していただきました。金田さんと打ち合わせを重ねて、書籍の顔となる表紙デザインができあがる過程は本当に楽しかったです。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

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