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第64回 (2020,07,21)
鶴間正昭 著 『律令国家形成期の土器様相』

評者: 坂井秀弥 (奈良大学名誉教授・公益財団法人大阪府文化財センター理事長)

書名 律令国家形成期の土器様相
著者 鶴間正昭 著
発行元 六一書房
出版日 2019/07
価格 15,400

鶴間正昭 著 『律令国家形成期の土器様相』―土器がものがたる律令国家の成立

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序 ―本書の目的と構成―
第1 章 新型土師器杯の出現
第1 節 関東に出現する新型土師器杯
第2 節 新型土師器杯出現の歴史的意義
第2 章 関東にみる律令国家形成期の土師器供膳具
第1 節 武蔵の土師器供膳具
第2 節 関東の土師器供膳具
第3 節 土師器供膳具の動向と関東
第3 章 南武蔵に成立する地域別土器
第1 節 南武蔵型杯の成立と展開
第2 節 道合遺跡出土の落合型杯
第4 章 律令国家形成期の関東の須恵器生産
第1 節 関東における7 世紀の須恵器生産
第2 節 武蔵・相模の律令体制成立期の須恵器生産
第3 節 関東からみた東海の諸窯
第5 章 南多摩窯跡群小山窯の成立
第1 節 小山窯の構造・器種構成
第2 節 編年的位置と年代観
第3 節 系譜と供給先の検討
第4 節 小山窯成立の意義
第6 章 須恵器をめぐる諸問題
第1 節 関東における須恵器杯G の生産
第2 節 沈線を有する須恵器蓋
第3 節 畿内産土師器をめぐる須恵器
第4 節 関東出土の東海産須恵器
第7 章 宮都の土器と地方の土器
第1 節 宮都の土師器と地方の土師器
第2 節 暗文土器模倣の東西
第3 節 赤色塗彩土師器の様相とその意味
第8 章 東北経営と関東系土師器
第1 節 関東系土師器からみた関東と東北
第2 節 南武蔵・相模と東北地方の地域間交流
第9 章 土器から探る律令国家と地方
第1 節 土器の模倣現象からみた律令国家と地方 
第2 節 律令国家形成期の土器様相の特質
あとがき
引用・参考文献
挿図・表出典

 1
 古代東国の土器を正面から論じた鶴間正昭さんの著書が出版された。B5判628頁、図表250に及ぶ。大著である。
 考古学において土器研究はどの時代でも大きな位置を占めてきた。土器は年代を決めるものさしとして不可欠である。しかし、それだけではない。形態・文様や製作技法、器種構成、使用痕など、歴史の復元に有効で多様な情報を多く含み、地域性や人びとの生活、社会や時代のありようを豊かに示す。歴史資料としてはきわめて重要だ。六国史や律令などの文献史料がそろっている古代においても、土器研究が果たす役割はきわめて大きい。むしろ、文献を踏まえて歴史を描き出せる利点がある。鶴間さんはそこに果敢に切り込んだ。
 関東の古代土器は、発掘調査が盛んになる1970年代後半から80年代に、服部敬史さん、福田健司さんらが編年や土器様相についての基礎をつくった。それを確実に引き継いだのが鶴間さんであり、その世代である。全国的な研究交流も進み、畿内中枢の絶対年代資料も増えた。東海・北陸などでは須恵器の生産・流通の研究も格段に進展した。1997年から奈良国立文化財研究所で開催された古代の土器研究会はその一つの到達点であった。年代の細部は一致をみないところもあるが、律令国家の成立を語れるところまできた。
 2
 鶴間さんは1990年に古代土器研究の出発点となる論文「奈良時代赤色塗彩土師器の様相とその意味」を発表された。同じ年に東京都埋蔵文化財調査センターの職員として、関東における律令国家を象徴する南多摩窯跡群小山窯の発掘調査を担当された。研究者として運命的な出会いである。この二つが本書の出発点になったという。遺跡に恵まれたとはいえ、このような大著を成すのは偉業というほかない。本書は仕事のかたわら30年以上書いてきた多くの論文の中から、飛鳥・奈良時代の土器に関したものに絞って再構成し改訂されたものである。
 本書の目的は、序文によれば、土器および土器様相を分析・検討することにより、中央と地方の土器様相の実態を明らかにし、そこから律令国家と地方の関係や、律令国家の東国経営の特質の解明など、律令国家形成期の諸問題をさぐることとする。そのために具体的なテーマとして、①関東の土器様相の分析・検討、②関東の須恵器生産の特徴と東海産須恵器の流通、③宮都の土器と地方の土器の関係、④東北地方に展開する関東系土師器の動態把握である。
 序につづく全体の章目次をしめすと、以下のとおりである。
第1章 新型土師器杯の出現
第2章 関東にみる律令国家形成期の土師器供膳具
第3章 南武蔵に成立する地域別土器
第4章 律令国家形成期の関東の須恵器生産
第5章 南多摩窯跡群小山窯の成立
第6章 須恵器をめぐる諸問題
第7章 宮都の土器と地方の土器
第8章 東北経営と関東系土師器
第9章 土器から探る律令国家と地方
 各章は上記①から④のテーマに対応しており、第1章〜第3章が①の関東の土器様相について、第4章〜第6章が②の須恵器について、第7章が③の宮都と地方の関係について、第8章が④の東北経営についてであり、最後の第9章が全体の総括である。土器を論じてはいるが、年代論などではない。あくまでもその先にある律令国家の形成過程の歴史を解明することだ。学生時代に古代史を専攻していた著者らしい。
 3
 鶴間さんの研究は、対象となる資料を徹底的に丹念に収集・蓄積して、必要な資料をじかに観察したうえで堅実に分析することに特徴がある。考古学の定石どおりで手抜きはない。職業として多様な遺跡の現場と遺物整理を担当されて、多数の良質な報告書を作成されているだけに観察眼は確かですぐれている。資料的な不安はなく、安心感がある。このような作業を通じて、導き出された成果はじつに膨大である。少し紹介してみよう。
 関東の土師器においては、7世紀中葉から後半と7世紀末葉から8世紀初頭の2時期に、それまでみられなかった宮都の影響を受けた器形・技法の新型土師器杯が出現する。この時期はいうまでもなく、大化改新から平城遷都にかけて律令国家が形成、確立する過程にある。この時期の東日本では須恵器が普及しはじめるが、伝統的に須恵器生産の弱い南関東においては、静岡県湖西窯製品の大量供給がみられる。また、小山窯のように器種や製作技法から畿内・東海の工人が関与したことがわかる窯は、律令制施行に必須である評家(郡衙)の設置に伴うとし、その背景に中央政府との連携を想定する。
 東北地方に関東系土師器が出土することは広く知られており、その背景に国家の政策的な移民が考えられている。関東は東北経営にとって重要な地だ。関東系土師器の地域的特徴から、移民の出身地が変化する状況が詳細にうかがえるという。また、律令社会に欠かせない須恵器は、東北では当初少ない反面、関東系土器が目立ち、在地産須恵器の普及に伴って関東系土器が消失する。須恵器の代替品としての性格を示唆する。
 本書の総括として、畿内産土師器や宮都の土器を模倣した各地の暗文や赤色塗彩技法のあり方から、律令国家の領域が中央とどのような関係にあるかについて考察し、都を中心として列島上に四重の同心円状の模倣・影響圏を推考する。同時に各地方においても地方官衙を中心にした同様の模倣・影響圏を想定し、律令社会の特質を浮き彫りにする。
 以上、いくつか論点を示しただけでも、土器は社会のあり方を反映することがよくわかる。
 4
 7世紀から8世紀にかけての時代、東アジアの激動の国際情勢のなかで、「日本」という国号をもった律令国家が成立した。その過程を究明するためには、土器の研究がきわめて重要な意味をもつことを鶴間さんは実証した。わたしも40年近く前、新潟県で官衙関連遺跡の妙高市栗原遺跡を調査し、大型掘立柱建物の存在だけではなく、前時期にはみられなかった須恵器が主要な器種として定着していること、それが平城I・IIに対比できることに、越後における律令制の成立をみた(坂井1983「越後における7・8世紀の土器様相と画期について」『信濃』35-4)。鶴間さんのように多くの資料に立脚して論理的に発展させることはできなかったが、本書によりこの時期の土器の意義を再確認することができた。
 今後できるならば、これだけの土器の成果に官衙や集落などのあり方も加えて、地域における律令国家成立の実相をより鮮明に描くことや、律令国家衰退期の様相についてもまとめていただけないかと欲が出てくる。なお、土器の図面が全般に小さくて、写真がないことからも、暗文やミガキなどの技法が理解しづらいところがあった。縮尺は資料の重要度も考慮してメリハリをつけてもよいのではないだろうか。
 各種の土器などの研究会は、2000年前後まで各地で活発に開かれていたが、しばらく少なくなっていた。しかし、最近、若い埋蔵文化財担当者の採用に伴って研究会も復活の兆しがみえてきた。2019年7月には、奈良文化財研究所で久しぶりに歴史土器研究会の主催で飛鳥時代の研究会が開催され、熱心に学ぶ若い世代の姿が見られた。今後を担う若い研究者にとっては、本書のように、これまでの多大な成果を体系的にまとめた著書はありがたい存在であろう。今後はこれを目標にして乗り越えようとする研究が現れることも期待したい。
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