HOME書評リレー > 書評: 弥生時代の東西交流 広域的な連動性を考える

第66回 (2020,09,10)
西相模考古学研究会 兵庫考古学談話会 編 『弥生時代の東西交流 広域的な連動性を考える』

評者: 野島 永 (広島大学大学院人間社会科学研究科 教授)

書名 弥生時代の東西交流 広域的な連動性を考える
著者 西相模考古学研究会 兵庫考古学談話会 編
発行元 六一書房
出版日 2020/05
価格 4,180

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第I部 研究発表
杉山和德 弥生時代の東西交流の解明に向けて 関東地方から考える
杉山浩平 東日本(太平洋沿岸)の地域間交流 2019シンポジウムを経て
小山岳夫 中央高地を介した弥生後期の交流 「箱清水式」大地域型式圏を中心として
平林大樹 鉄釧研究へのまなざし
西川修一 東日本の地域間交流「周縁」の評価をめぐって
禰冝田佳男 鉄器・青銅器からみた広域流通ネットワーク
宮里 修 周縁の銅戈
荒田敬介 鉄製武器の形態・保有状況からみた西日本における弥生時代の地域間交流
村田裕介 近畿北部地域における墓制の画期と地域間関係
森 貴教 砥石組成からみた鉄器化と集落間関係 近畿地方を対象として
第II部 総括討議記録
第III部 コラム集
高瀬克範 交易品としての動物質資源への考古学的接近
比田井克仁 東西交流の屈曲点と地域性そして斉一化
佐藤 剛「接触・緩衝地帯(フロンティア)」(西川?2019)について
早野浩二 東海系土器を基軸とした東西広域編年の実際
豊島直博 予稿集『弥生時代における東西交流の実態 広域的な連動性を問う』を読んで
大村 直 土器の移動が証明するもの 倭国乱と王権の成立
ライアン・ジョセフ 蕨手状装飾をもつ鉄器について   
石黒立人 覚書「交流」と「拠点」2019
福島孝行 但馬・丹後地域から科野地域そして関東地方
吉田 広 青銅器片の流通
鈴木崇司 鉄からみた弥生時代の地域間交流
岡本孝之 武器としての磨製石鏃
佐藤由紀男 北日本を中心とした弥生時代の物と人の移動について
松木武彦 日本列島の東西をめぐる5つの論座 弥生〜古墳時代を中心に
青山博樹「南関東圏」拡大の背景と課題
北條芳隆 弥生時代の市場交換
森岡秀人 日本列島弥生コンプレックス 連動と分断と跛行の縺れ
寺前直人 弥生時代における稀少財分布論の課題
久住猛雄 東西交流をめぐる基礎的認識と新地平 北部九州〜日本海域の併行関係(予察)と「板石硯」
大賀克彦 財の交換論に関する諸問題
立花 実 石の斧、鉄の斧
付 録
編年併行関係表
シンポジウム予稿集目次
シンポジウム当日プログラム
総括討議の進行案
根塚遺跡の評価と課題 
シンポジウムを終えて
執筆者一覧 

 西相模考古学研究会と兵庫考古学談話会がタッグを組み、弥生時代の物流に関する新たな研究成果を発信した。本書は5年前のシンポジウム「久ヶ原・弥生町期の現在―相模湾/東京湾の弥生後期の様相―」(古屋他編『列島東部における弥生後期の変革〜久ヶ原・弥生町期の現在と未来〜』(2015年、六一書房)に収録)でなされた東日本弥生後期社会の物流に関わる問題提起を前提とし、西日本から東日本までを見通しつつ、広範な連動について討議したシンポジウム(於 横浜市歴史博物館、2019年2月9・10日)の研究成果を世に問うたものである。
 第I部が研究発表、第II部が総括討議の記録、第III部がコラム集と三部構成になっている。第I部では、5年前を引き継ぎ、青銅器や鉄器などの考察から弥生社会の広範な物流とその連動性に関わる問題提起がなされた。第II部の討論記録でも、青銅器や鉄器、ガラス小玉などを話題としつつ、第I部の補完的説明が付加されている。第III部では、「弥生文化」といった歴史概念の再検証にもおよぶ刺戟的な論考も交え、あらたな研究の地平を垣間見ることができる仕組みとなっている。
 これらが示す通り、近年の東日本における弥生時代後期の物流は、決して西日本の周辺事象のようなものではないことがわかる。関東地方における鉄器の集計と鉄剣の分析(杉山和德)、関東地方南部を起点とした紺色のカリガラス小玉の流通(斎藤あや)、東海・関東沿岸地域における海人の巡回と貝輪の流通(杉山浩平)といった近年の研究は、これまで西日本を中心に行われてきた青銅・鉄・ガラス・貝製品などの物流研究との比較さえ可能となってきた。物流の「連動性」がテーマとして選ばれた理由でもあろう。丹後地域・中部高地などにみられる特有の鉄剣(荒田・ライアン・鈴木論考)や、鉄釧(平林論考)の分析も考えあわせれば、東日本におけるあらたな物流研究の展開が弥生社会研究を牽引していく可能性さえ予感できる。
 このほかにも、交易や財の流通ルートに関わるさまざまな興味深い意見も注目できる。中部高地(長野県・群馬県北部)にみられる刃関双孔鉄剣・幅狭の鉄釧・淡青色のガラス小玉が独自の地域性を持ちつつ、京都府北部の丹後地域との交流を示す流通財とみる考察(小山論考)や、但馬・丹後地域から科野(信濃)、関東地方を見すえ、潤沢な物資流通を指摘する意見(福島論考)など、弥生時代後期には丹後地域・中部高地・関東地方を結ぶルートに、比較的長距離につながる流通網が存在していたとみることができる。貝製品や小型青銅製品、銅鐸破片などの流通経路ともなる東海・関東沿岸ルート(杉山浩平・吉田・西川論考)との流通構造の比較を行う地域研究も重視されよう。またそれだけではなく、銅鐸や板状鉄斧の出土分布から、日本海沿岸域から瀬戸内海・近畿地方へのルート、近畿地方から東海・関東地方南部へのルート、鉄釧とその加工品から、丹後地域から東海地方へのルートを想定する見解(禰冝田論考)のほか、墳墓墓壙内供献土器の分析から、丹後地域と日本海沿岸域や東海地方などとの地域間交渉なども想定される(村田論考)。先述した関東地方南部に分布するカリガラス小玉の東海・中部高地への流通といった新たな見解も注目され、その生産・供給先の解明(大賀論考)とともに、「出土分布」の意味が改めて問題視されることとなった(斎藤討議、寺前・西川論考)。 
 また、鉄器普及の指標とされる砥石組成の分析成果(森論考)や、九州地方北部から山陰・北陸地方といった日本海沿岸域に広がる板石硯の「発見」事例(久住論考)についても、さらなる検証と今後の進展が期待できる。
 さらに、関東地方の弥生時代後期の物質文化とその流通領域に関わる研究は必然的にその周辺との関係をも照射する。西川修一氏が指摘した利根川・鬼怒川ライン(青山論考)以北が「弥生倭人の嗜好」の及ばない世界であることから、この境界が内陸ルートで流通する鉄・ガラスの集積分布の限界であること(西川論考)や、温暖地域から寒冷地域へといった気候・環境差や、土器の機能分化の差異にも当てはまること(比田井論考)が想定されている。しかし、このような接触・緩衝地帯を「フロンティア・ゾーン」と表現することには、アイヌ文化研究からみれば、「倭(和)人中心史観」といった違和感が指摘され、「コンタクト・ゾーン」とすべきであるとの意見(佐藤論考)もみられた。このほか、続縄文文化期、北海道周辺における鞣し革生産とその交易の可能性が示唆された(高瀬論考)。動物遺存体の理化学的分析に関する研究情勢の紹介を行う。
 最後に、森岡秀人氏は総括的な概論として、青銅器・鉄器それぞれの原料の入手、製品の流通を概観しつつ、弥生文化の再構成を試みる。弥生社会の市場交換に稲束を重視する意見(北條論考)、弥生・古墳社会を世界史の視点から読み解く試論(松木論考)など、刺戟的な短編も花を添える。
 読了して、シンポジウムの司会をされた西川修一氏や森岡秀人氏、研究の中心となった杉山和德氏らの意気込みが伝わってくるかのようである。弥生時代後期の社会変化と物流研究に必携の書となろう。
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