HOME書評リレー > 書評: 近世物質文化の考古学的研究 民具資料との対比から日蘭物質文化比較へ

第70回 (2021,04,13)
小林克 著 『近世物質文化の考古学的研究 民具資料との対比から日蘭物質文化比較へ』

評者: 堀内秀樹 (東京大学埋蔵文化財調査室)

書名 近世物質文化の考古学的研究 民具資料との対比から日蘭物質文化比較へ
著者 小林克 著
発行元 六一書房
出版日 2021/03
価格 7,700

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第I部 研究の方法と課題
第1章 本論の目的と意義 
  第1節 物質文化研究とその意義
  第2節 研究の対象と方法
第2章 近世考古学研究 その検討と課題
  第1節 近世考古学研究史 
  第2節 近世考古学研究の種類と方向性
 第3章 方法論の展開
  第1節 近世考古学の方法論 
  第2節 近世考古学と民具研究から物質文化研究へ 
  第3節 本書における研究の展開
第II部 物質文化研究各論
 第1章 火の道具 ボウズと照明具
  第1節 研究史
  第2節 ボウズ 
  第3節 照明具
 第2章 火打石
  第1節 研究史
  第2節 研究の目的と範囲
  第3節 近世遺跡出土の火打石
  第4節 民俗調査・文献調査の成果
  第5節 産出地の調査 
  第6節 火打石研究の総括 
 第3章 今戸焼
  第1節 研究史 
  第2節 現存する今戸焼土器職人への調査
  第3節 江戸・東京の瓦と今戸焼 
  第4節 焼物としての今戸焼の実態
 第4章 瓦漏
  第1節 研究史
  第2節 市谷尾張藩上屋敷跡遺跡出土瓦漏の比較・検討
  第3節 瓦漏研究の方向性と課題 
  第4節 瓦漏研究のまとめと展望
第III部 海外物質文化比較論
 第1章 日蘭物質文化交流と考古学
  第1節 比較の背景 
  第2節 目的 
 第2章 日蘭17世紀・18世紀の都市の物質文化比較
   第1節 研究の目的と方法 
   第2節 アムステルダムの歴史と発掘調査
   第3節 江戸遺跡の発掘調査
   第4節 比較のまとめ 
 第3章 考古資料から見る日蘭相互の物質文化
   第1節 真砂遺跡出土のクレイパイプ 
   第2節 オランダ国内諸都市出土の肥前磁器 
 第4章 物質文化の比較・検討-アジア各地の遺跡からの視点     
   第1節 オランダからの桟瓦・レンガ伝播の可能性
   第2節 喫煙具の相互影響の基礎的考察 
   第3節 考古資料から見た日蘭の生活文化とVOC 
 第5章 交流する日蘭の物質文化
   第1節 交流と影響 
   第2節 日蘭の物質文化比較と交流 
第IV部 まとめと展望
 第1章 はじめに 
 第2章 成果  
   第1節 第II部の成果 
   第2節 第III部の成果 
 第3章 課題と展望
 第4章 おわりに 
 引用・参考文献
 あとがき 
 初出文献一覧 
 用語索引 

 小林克著、六一書房発行表題著書は、筆者である小林氏の江戸遺跡(文京区真砂遺跡)の発掘調査、江戸東京博物館(含、江戸東京たてもの園)、練馬区立石神井公園ふるさと文化館と長年にわたり考古学を軸足として、民俗学、歴史学、博物館学研究者としての調査研究成果である。
 本書の構成は、「第1部研究の方法と課題」で著者独自の視点である物質文化研究についての提示と実際の方法について触れた後に、「第2部物質文化研究各論」としてボウズ、照明具、発火具、今戸焼、瓦漏を取り上げ、生産・流通・消費などについて、考古資料、民具資料、文字資料、写真資料、聞き取りなどの多様な歴史伝達コードを用いて論が展開される。「第3部海外物質文化比較論」ではオランダ、アジア地域から出土したクレイパイプ、レンガ、瓦などを取り上げ、分析を行う。これら取り扱う材料は、一見関連性の薄いとものであるが、筆者の研究視点である物質文化研究として整合させている。
 以下、本著の内容を簡単に紹介しながら、感じたことについて触れてみたい。
 第1部では、示唆的な箇所が各所に見受けられる。こうした論文にとって重要な本著を貫くフレームは、「物質文化資料論」とでも評価できようか?本論でも語られているが、モノを現代との関係性(系統性)の中から遡求しつつ位置づけ、その資料も民具資料、伝承者、文献資料、絵画資料、考古資料と広領域性を持つ。資料の広域性については、既に多くの論著で語られているが(例えば「中世総合資料学」(前川要編2003『中世総合資料学の提唱』新人物往来社)、著者の方向性は異なるベクトルを持つ。
 現在の歴史伝達のコードは、モノ、文字などに加えて映像、音声、伝承などからDNAなどを含めると多岐な時代になっている。また、人類が先史時代から営々と伝達してきたモノに対しての技術や知識の蓄積は、産業革命以降にモノの作り手が人から機械に置き換わることによって急激に消失しつつある(著者もH.J.エガースを引用しながら「死につつある文化」と評している)。近世と近代はこうした視座から考えた際に、歴史資料や物質文化の大きなエポックと認識できる。歴史情報として考えた際に、必然的に時代が降るにしたがって広領域を扱うことになる。
 第2部では、先述のように各論としてボウズ、火打石、今戸焼、瓦漏が取り上げられる。第1章の火の道具として取り上げられた照明具は、その分類を出土資料のみならず民具資料も含めた分類・分析を行っていることは、地中で遺跡化したモノという考古資料の弱点を克服する形で示されており、分類の上位に「●●具」とした用途が包含されているものの、評価視点として正鵠を得たものとなっている。第2章火打石や特に第3章今戸焼では、調査法に民俗学的手法を多く取り入れており、生産に力点が置かれている。生産についての技術系譜や生産に関わる道具類などの記述は少ないものの、以前に著者らが1997年に行った今戸焼の調査報告には詳細な記述があり(江戸東京博物館1997『今戸焼』)、本著はそのエッセンスが論じられている。興味がある方は、合わせて読みたい。
 第3部では、近世日本と海外の出土資料との対比を中心に論が展開する。都市地理学の分野では、都市間レベルの対比となろうが、都市システムとして埋め立て、水道などのインフラが取り上げられているものの、むしろ地割あるいは地割り内の構成要素(セスピット、建物基礎)とその部材や生活用品に力点が置かれている。ただ、こうした対比の際には、地勢的な共通性とともに在来の技術、建築様式、生活様式との関係も気になるところである。
 考古学的には、「外来」と評価される違地域間の行為、技術、道具などの影響は、時代・地域を問わず起こるが、それが「在地化」するプロセスは多様である。例えば著者が取り上げているクレイパイプは、オランダを中心とした喫煙道具であるが、日本では、「喫煙行為」は普及していくものの、そこで使用される道具は日本独自の「キセル」である。こうした外来の行為、技術、道具などの需要の様態は種々のランクで展開される。合わせて、東洋磁器の喫茶道具などはモノとしての価値観やそれに応じた在地窯との競合などとも関わり、その評価バイアスは一定ではない。流行、希少性、支配構造、流通構造などによって変化し、考古学的には地域差、年代差、社会・経済階層、集団などと相関した消費様相となって現れる。
 モノを評価する視点は多様である。近世遺跡から出土する遺物の多くは「商品」であり、モノの動きや影響も経済的な解釈視点を持つ必要があると考えている。本著では文化的な影響関係を中心に論が展開され、こうした外からの影響を常に受け続ける新しい時代における消費財を位置づける方向性の一つを示しているのではないだろうか?今後、考古学の重要な方法論である型式や系統性などとの関係の発信も期待したい。
 「新しい時代」はいずれ「古い時代」となる。一般的にはまだ「古い時代」を扱う学問が考古学のイメージであるが、本著は多くの歴史伝達コードが存在する時代の考古学の方法を示した良著である。これから新しい時代の考古学の重要性はさらに高まっていくと感じているが、歴史考古学をこれから学ぼうとしている学生などにも読んでおいて欲しい書のひとつである。
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